自治体法務の備忘録

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分担金に関する教示

 私にとっては、これ無しでは仕事ができない北海道町村会法務支援室のサイト(道外なのにすいません、すいません。)の法律相談事例集に、下水道事業受益者分担金に係る教示文について記載がありました。

お尋ねの下水道事業受益者分担金については、地方自治法第228条に定める分担金と解されますが、地方自治法上の分担金等の徴収に関する処分についての不服申立てについては、第229条第3項で「分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収に関する処分についての審査請求又は異議申立てに関する行政不服審査法第14条第1項 本文又は第45条の期間は、当該処分を受けた日の翌日から起算して30日以内とする」と規定されているところです。
http://houmu.h-chosonkai.gr.jp/jireisyuu/kaitou95.htm

 このことにはまったく付け加えることはないのですが、ややこしい「下水道事業受益者【負担金】」の取扱いについて、ご参考まで記載しておきましょう。

図解 よくわかる行政不服申立てのしくみ

図解 よくわかる行政不服申立てのしくみ

 分担金等の徴収に似て非なるものに「負担金」の制度ある。これについては、地方自治法に規定がないので、一般原則に戻って、行政不服審査法により手続を採ることになる。たとえば、都市計画法75条2項は、条例で受益者の範囲及び負担金の徴収方法を定めることとしているが、その例としては、下水道受益者負担金が考えられる。
(111ページ)

 ここで「一般原則に戻って、行政不服審査法により手続を採る」とは、つまり、申出期間が60日であり、かつ、前置主義でないので不服申立て以前の訴訟も可能ということです。町村会への質問者が、「負担金」の方の教示を見誤ったとは思いませんが、多くの自治体で「分担金」「負担金」の規定ぶりが混乱しているのかもしれませんね。
私「でも、『それ全部知らなきゃ駄目なんですか』って、愚痴りたくなるよね」
後輩「なんか、もう、それは法律の方がおかしいのじゃないですか」
私「いや、なにも私はそこまでは」

病院新設中止の行政指導、最高裁「訴訟の対象」

 id:okaguchikさんの「ボツネタ」掲載の記事から

最高裁第二小法廷(今井功裁判長)は「勧告のような強制力のない行政指導でも、不利益に直結する場合は裁判で争える」という初めての判断を示し、訴えを門前払いした一、二審判決を破棄。審理を一審・富山地裁に差し戻した。
http://www.asahi.com/national/update/0715/TKY200507150227.html

 当市役所にかぎらず、公務員の方と話していて感じるのは、法の「形式」に従えばその行為は正当化されるという認識を持っていることが多いのではないか、ということです。
 公務員の仕事の内容は、基本的に法律で縛られているものなので、「決められたとおり執行している」点で思考が停止しやすい(地方公務員に関してだけなのかな?)。この点、行政事件訴訟法の改正に際して、行政訴訟の対象となる可否を論じた際にあちこちで随分と議論しました。
相手「だって、法律に『裁判できます』って書いてなきゃ裁判起こせないんじゃないのか?」
私「それは発想が逆でしょう。『法律があるから裁判がある』のではなくて『裁判があるから法律がある』と考えないと。」
 裁判においては、個別の行為の違法性の判断は、形式論ではなく「ぶっちゃけどうよ」が論点になることを肝に銘ずるべきです。ましてや、行政事件訴訟法の改正による原告適格の拡大が明文化された今後においては、「個別の行為」に関する適法違法の可否を認識できる「判断力」が職員に求められます。
 最高裁の判決文はhttp://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/%24DefaultView/A5498DB9E2B5D8EA4925703F00108BCE?OpenDocument

このような医療法30条の7の規定に基づく病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると,この勧告は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。

 この部分ですね。

 最近、改正行政事件訴訟法について、以下の書籍が出版されていましたので、リスト(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/listmania/list-browse/-/2LSL9DPE4Y2RL/249-4468677-9169933)に追加しました。

改正行政事件訴訟法研究 (ジュリスト増刊)

改正行政事件訴訟法研究 (ジュリスト増刊)

 amazonのリストには、まだ掲載されていませんが、4月1日付けで「Q&A 改正行政事件訴訟法http://www.gyosei.co.jp/search/search.cgi?BOOKNUM=1083&VAL=)」も発売されています。

行政財産と補助金の取扱いについて

 出入りしている法令関係の業者さんから「よその自治体でよく聞かれているのですが、kei-zuさんのお考えはいかがでしょうか」と照会をうけました。

 聞くなよ、ですが、私見でありますが、とお断りした上で、以下のようにご回答いたしました。

 前者については、処分であり、教示の対象となると思うが、なぜ対象外と考えるかわからない。処分性のない「契約行為」であるという考えなのか?地方自治法で、行政財産と公の施設に係る不服申立ての規定があり、処分性は明白であると思うが。
 後者については、給付行政における行政契約の一形態として考えられるものの、補助金の対象が特定のものである場合においては、要綱を「内部的な事務取扱手順」を定めたものとする説明もできようが、市民一般を念頭に置いた規定であるのであれば、処分性を否定するのは、今のご時世では難しいのではないか。要綱が告示されている場合においては、まして、処分としての性格が強いものであろう。実際に訴訟の場では、「補助金」だから、という統一的な取扱いではなく、その目的や内容によって事例ごとに(処分性の有無は)判断されると思われるが。

私「それで、他の自治体の皆さんは、どのような取扱いの傾向なのですか?」
業者さん「教示の対象とはされないところが多いようです。」
私「え゛」
 第一法規の「地方公共団体 行政不服審査の実務裁決例集」には、東京都の店舗改造資金不貸付決定に対する不服申立てについて、私法上の利息付消費貸借とかわらず処分ではないとして却下処分とした裁決例が記載されていますが、批判的な学説及び判例も併記されているので、注意が必要です。
 なお、このたびの行政事件訴訟法について、一番わかりやすく記載されていると思われる

解説 改正行政事件訴訟法

解説 改正行政事件訴訟法

の89ページにもこのことについては記載があります。
 参考のため、要綱を根拠とした助成に処分性を認めた判決の抜粋を掲載しましょう。

【昭和54年7月30日大阪高等裁判所判決】
 各地方公共団体が、その選択した具体的施策を実施するに当り、必ずしもこれを条例・規則化する義務はないとしても、一旦、地方公共団体が同法の掲げる同和対策の実施としての具体的施策を、たとえ要綱(それが被控訴人主張の通り、長の事務執行権限に基づくものとしても)によってではあれ、対象地域の住民に対し宣明しこれを制度化したときは、同制度は、同対法に基づく制度として機能し、且つ機能さすべきものと解するのが相当である。
(中略)
 よって、本件給付制度における本件要綱に基づく申請は、これを行訴法3条5項にいう法令に基づく申請と解すべきであり、これに対する被控訴人の応答は処分性を有するものと認められる。

「箇」と「か」

 東京都例規は台本では縦書きですから、ついそのクセが出てしまったんじゃないでしょうかね。
http://d.hatena.ne.jp/washita/20050315#p1

 一応、原則について、掲載しておきましょうかね。

 「箇」は、当用漢字表にはなく、常用漢字表で初めて掲げられた。その際、例えば、従来「個所」又は「か所」と書かれていたものを「箇所」と書くことが可能となった。
 それ以降のルールとしては、前の字が漢数字のときは漢字、算用数字のときは平仮名とすることとなった。「箇」の略字である「ヵ」は、公用文では用いない。なお、マスコミでは依然「個所」を用いている。

分かりやすい公用文の書き方

分かりやすい公用文の書き方

 公用文では、数詞に続けて物を数えるのに添える語として「箇」及び「か」を用いる。
 「箇」は、複合の語として漢字若しくは漢数字に続く場合又は単独で「かしょ」と言う場合に、「か」は、漢数字又は算用数字に続く場合にそれぞれ用いる。
 「個」は、新聞・放送など報道関係で「箇」に代えて用いられる語である。
 「ヵ」・「ヶ」は、「個」とともに公用文での使用は不適切である。

公用文用字用語の要点

公用文用字用語の要点

 両方とも分かりやすくて良い本ですよ、と宣伝。
 さて、原則は、上記の通りなのですが、例規については、それぞれの自治体にクセというかローカルルールがある(例えば、横浜市では、「附則」の語に代えて「付則」の語が使用されています。)ので、本件について、東京都の独自の取扱いかはどうかまでは、時間がないので、今は、ちょっと調べられません。
 しかしながら、参考にされる自治体の方は、ご注意を。
 先日掲載した、千葉県(台本は縦書き)の規則も「6箇月」になっていたけど、その点、考察したのだろうな。

行政不服審査法及び行政事件訴訟法の規定に基づく教示の文の標準を定める規則

 東京都規則がネットに掲載されていました。
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/ag10134831.html
 以前、横書きの場合は、「6箇月」ではなく、「6か月」と記載するべきでは無いか、と掲載しましたが、東京都規則では「箇」を使用していますね。

教示の文例

 さて、連載もいよいよ大詰めになってきました。って、連載かよ。
 この期におよんで修正します。(をい)

不服申立てと取消しの訴えの双方が出来る場合】
 この決定に不服がある場合は、この通知を受けた日の翌日から起算して60日以内に市長に対して異議申立てをすることができます。
 また、この決定の取消しを求める訴えは、この決定の通知を受けた日の翌日から起算して(異議申立てをした場合は、その異議申立てに対する決定の通知を受けた日の翌日から起算して)6か月以内に、市を被告として(市長が被告の代表者となります。)、提起することができます。

 不服申立てを行った場合の出訴期間の書きぶりが、「ただし書」で座りが悪いことは指摘されていたのですが、直してしまいました。(過去の掲載記事も修正しました。)
 ここまで砕いて書いちゃうと、法文からは遠いものになるという批判は、あまんじて受けよう。
 二転三転して無様ですが、ご覧になった法制執務担当の方は、他山の石としてください。
 直前の修正で、今年も各部署に頭を下げる羽目に・・・(でも平気)