自治体法務の備忘録

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ゴミ収集所の所有権の主張について

 昨日の記事(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050511#p1)について、tiyotiyoさんからコメントいただきました。

「条例」で「所有権」を宣言(確認?)することが、(宣言しなくても)窃盗罪を成立させることと、「適正に管理する」こと、をパラレルに説明してよいのでしょうか?しかし、「所有権」が誰にあろうがなかろうが、「適正に管理」することを宣言すれば、「行政は知らんぷりできなくなる」というのは興味深い発想ですね。問題は、そのあとですが・・・・・・。

 ご意見ありがとうございます。え〜と、コメントの内容についての私の解釈や論の展開に誤解や混乱があればご指摘くださいね(^^; 
 え〜、まず、念のために記載しますが、私はこの種の条例が違法だと言っているわけでもこのたびの逮捕が不当逮捕だと言っているわけでもないわけで、条例の制定における自治体の政策論についての指摘をしてみたわけです。
 私が前掲の記事で言いたかったことは、つまりは、このような条例が制定されれば、役所が「うちは収集場所に置かれたゴミを拾っていくだけですから」という「言い訳」をすることは通用しなくなるのではないか、と言うことです。

 刑法上の占有は、財物に対する事実上の支配であるとされる。すなわち、財物に対する支配の意思をもって事実上財物を支配し、または支配の可能性をもつこと、と定義される。
「講義 刑法各論」(青林書院)100ページ

【S32.11.08最高裁判決】
 刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係であつて、その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが、必ずしも物の現実の所持または監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以つて足りる。

 ゴミの収集所は、ブロック塀で囲われた自治体が所有する土地としてあるものから道路の隅が指定されているものまでいろいろな形態があります。この場合において、役所が「うちは収集場所に置かれたゴミを拾っていくだけですから」という限りは、「支配の意思をもって事実上財物を支配し、または支配の可能性をもつこと」を行っているとは言い難いのではないか、といういささか意地の悪い指摘です。
 そして、上記の「占有」の定義を主張するに当たっては、役所のゴミ収集所における「適正な管理」が前提であるべきなのではないか、というのが前掲の論の詳細です。
 したがって、コメントのお言葉を借りますと、「適正に管理すること」が「所有権の宣言(確認?)」及び「(宣言しなくても)窃盗罪を成立させること」の前提であろうという趣旨だったのですが。
 なお、「『適正に管理』することを宣言すれば、『行政は知らんぷりできなくなる』」というのは、現場で市民の方々と接している行政マンの経験としての発想です。
 「適正な管理」がどの範囲までを含めるのかは議論があるところでありましょうが、「役所が『管理している』っていうんだったら、不当なゴミ出しについて、ちゃんと注意してよ」と市民にご意見いただく端緒になってしまう可能性はあるのでは、ということ。もっとも、「だから宣言するべきではない」というわけではないですよ(^^)
 また、「衛生組合は適正な管理もせずに所有権だけ主張している」ということが言いたいわけでもないです。市民から苦情が寄せられ、「廃棄物の発生を抑制し、再利用を促進するとともに、廃棄物を適正に処理し、あわせて生活環境を清潔にすることにより、良好な生活環境の保全及び公衆衛生の向上並びに資源が循環して利用されるまちづくりを図る」という目的(第1条)を達成するために条例を改正の上、職員が張り込んでいるという事実から、本件において衛生組合は適正な管理に基づき当該資源物に対する所有権を主張できるとは思います。
 条例の制定は、市民に対して政策のあるべき姿を提示するものであるという点で、上記の検討が行われているものであれば、評価すべきものと言える。
 が、しかし「資源ゴミな、あれ、持ってかれたらもったいないだろ。どっかの自治体で所有権を主張した条例あったな。あれと同じの、うちの自治体にも作れ」「じゃあ、同じ内容で制定しますね」という発想にとどまる限りは、政策法務論として正しいものではないですよね。当たり前の話ですが。
 政策法務論として、とかく独自条例の策定が注目を浴びることにより、先行自治体の条例に習う事例が多い中で、本論の展開は、私自身を含めた自治体法務担当への戒めとご理解いただきたい。(いや、もう、私のような人間は易きに流れやすいので)