自治体法務の備忘録

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「行政政策の侍女」なのか

政策法務のレッスン―戦略的条例づくりをめざして― [自治体議会政策学会叢書/Copa Books] (COPABOOKS―自治体議会政策学会叢書)

政策法務のレッスン―戦略的条例づくりをめざして― [自治体議会政策学会叢書/Copa Books] (COPABOOKS―自治体議会政策学会叢書)

 市民協働について第一人者でいらっしゃる松下啓一教授(大阪国際大学)が書かれたブックレットです。*1
 「政策法務」の代表的な定義について述べられた後で

この定義で注意すべきことは、このような政策法務活動を行う主体としては、自治体、自治体職員が想定されている点である。国と対峙させる形で自治体をクローズアップし、実際の担い手という点から自治体職員を想定することは理解できなくはないが、そこが市民から見て、政策法務に「何か権力的な危険性」を感じさせる原因にもなっていると思う。こうした危惧をどう払拭していくのかが、政策法務の今日的課題だと思う。
(20ページ)

との松下教授ならでは指摘にはうなずかされ、本書の最終章で「市民化のレッスン」として市民協働に論を発展させるあたりは、(ページ数の都合からか食い足りない点はありますが)類書にはない興味深さがあります。
 さて、本書の「政策法務の展望と課題」という論では「法治主義からの批判」として以下のように記述されています。

 政策法務にとって法治主義の観点からの批判は重要である。法治主義とは、行政権も法によってコントロールされるというもので、政策手法として条例を使うという発想は、結果として法の厳格性に対するツメが甘くなってしまい、政策法務論は法を「行政政策の侍女」にし、法治主義を歪める危険性があるとされる。(小早川光郎編『地方分権自治体法務』ぎょうせい 2000年など)
(56ページ)

 そして、上記に続けて、旧オウム真理教信者の住民登録拒否の取扱いについて、その政治的判断と違法性について述べられた上で、「政策法務論を自治政策法務論全体のなかから再構築することだと思う。」と結ばれます。 教授は市民に対する「権力的な危険性」が念頭にあるようですが、上記は自治体の法制執務担当が政策法務論に感じる違和感(というか不安感)でもあるものでしょう。
 私自身も政策法務論に触れて間もない頃は、上記の違和感(というか不安感)が払拭できないでいたのですが、六角潤さんの政策法務法治主義についての記述(http://propos.s27.xrea.com/20030303.html)における結びの

してみれば,自治体法務・政策法務はかかる環境を前提とした法治主義を構築せざるをえないのではないか。

というお言葉が、法制執務担当として政策法務を論じるときの私の支えになりました。今では、自治体法務という土壌において、従来の法制執務と理論としての政策法務を実務をもって埋めていくというのが私のスタンスです。

*1:余談ですが、上記書籍は「自治体議会政策学会叢書」として出版されており、「行政マン」のみならず「政治家」も対象にされているらしい(「発刊にあたって」による)。分権時代の立法論として注目すべき事項だと思います。