自治体法務の備忘録

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違法性の疑いを条例でどのように除去するのか

住民基本台帳法】
住民基本台帳の一部の写しの閲覧)
第11条 何人でも、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第7条第1号から第3号まで及び第7号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第6条第3項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第7条第1号から第3号まで及び第7号に掲げる事項を記載した書類。以下この条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)の閲覧を請求することができる。
2 前項の請求は、請求事由その他総務省令で定める事項を明らかにしてしなければならない。ただし、総務省令で定める場合には、この限りでない。
3 市町村長は、第一項の請求が不当な目的によることが明らかなとき又は住民基本台帳の一部の写しの閲覧により知り得た事項を不当な目的に使用されるおそれがあることその他の当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認めるときは、当該請求を拒むことができる。

熊本市住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例】
(住民基本台帳の一部の写しの閲覧の制限)
第3条 法第11条第1項に規定する住民基本台帳の一部の写しの閲覧に係る請求のうち、被閲覧者を氏名、生年月日、住所等により特定できないものにあっては、当該請求を拒むものとする。ただし、次に掲げる請求については、この限りでない。
(1) 官公署の職員が職務上行う請求
(2) 日本放送協会その他の規則で定める報道機関が報道の用に供する目的のために行う請求で公益上必要と市長が認めたもの
(3) 大学その他の規則で定める学術研究機関が学術研究の用に供するために行う請求で公益上必要と市長が認めたもの
(4) 前各号に掲げるもののほか、公益上必要があると認められる事由その他市長が認めた事由に係る請求
2 市長は、前項第2号から第4号までに規定する請求に該当するとして当該閲覧に係る請求に応じた場合において、その閲覧により得た情報の適正な管理を行うため、当該請求を行った者に対し、その閲覧により得た情報の利用状況等に関し、報告させることができる。

 全国で最初に閲覧の制限を規定した「熊本市住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例」については、すでに多くの場で紹介されていますが、ここでは、「自治例規担当者のための主要法令トピックス第46版(ぎょうせい)」において紹介された「熊本市住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例の解釈等(熊本市から一言)」から以下の内容を引用しましょう。

 今回の制限が同条第3項で許された範囲のものであるかという問題について、本市は、何度も検討を加えました。その検討の中で、そもそも住基法の目的は何であったのかという原点が問題となりました。
 住基法の目的は、第1条にありますが、次のような構造となっています。

①住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とする。
②住民の住所に関する届出等の簡素化を図る。

③あわせて住民に関する記録の適正な管理を図る。

      ↓

住民基本台帳の精度を高め、もって住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。

 ということであれば、そもそも、ダイレクトメール発送のためのような不特定対象閲覧は、(中略)法の目的外であり、そうであれば、そういった閲覧を拒否することも可能ではないかということです。

 立法の目的を検討の上で組み立てられた理論は評価でき、後続の自治体の範となっているものと思われます。

佐賀市住民基本台帳の閲覧に関する条例】
(閲覧の拒否)
第2条 市長は、プライバシーの侵害又は差別的事象につながるおそれがある閲覧その他の不当な目的に使用されるおそれがある閲覧の請求及び不特定又は多数の住民を閲覧の対象とする閲覧の請求で次の各号のいずれかに該当するものは法第11条第3項に規定する当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認め、当該請求を拒むものとする。ただし、住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令(昭和60年自治省令第28条)第3条各号に定める場合に該当するものは、この限りでない。
(1) ダイレクトメールその他これに類似するものの送付を目的とするもの
(2) 戸別訪問を目的とするもの
(3) 閲覧により知り得た事項により名簿その他これに類似するものを作製し、これを頒布し、又は販売するおそれがあるとみとめられるもの
(4) 前3号に掲げるもののほか規則でさだめるもの
2及び3 (略)

 佐賀市の条例は、法の目的外と想定されるものについて明示しているわけなのでしょう。でも、閲覧の目的で虚偽の申請がされたらどうするのかな。第3号の「おそれがある」に該当させるのでしょうか。
 なお、某自治体の法制執務担当の方から、熊本市の条例における「不特定閲覧請求」に対する閲覧制限は、省令第1条第2号に掲げる「請求に係る住民の範囲」を狭くとらえることによって省令も含めた法体系の中で整合性を図っているのではないかとのご指摘を受けました。

住民基本台帳の一部の写しの閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令】
住民基本台帳の一部の写しの閲覧の請求につき明らかにしなければならない事項)
第1条 住民基本台帳法(以下「法」という。)第11条第2項に規定する総務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
(1) 住民基本台帳の一部の写しの閲覧を請求する者の氏名及び住所
(2) 請求に係る住民の範囲

 「範囲」として特定の個人を指定できない「不特定閲覧請求」は、法第11条第2項の要件を満たさないために閲覧を拒否しようとしているのではないか、というのです。その点については、熊本市のコメントは無く、真偽のほどはわかりません。
 熊本市佐賀市の解釈が妥当であるか否かは、最終的には司法の判断を仰がねばならないわけですが、解釈論に基づいて立法論を組み立てる姿勢は評価できます。