自治体法務の備忘録

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「自治体法務研究 秋号」への疑問

 「自治体法務研究 秋号」の「自治体法務Q&A」での指定管理者制度についての記事(91ページ)の内容で、当市の指定管理者担当と一緒に首をひねった箇所がありました。
指定管理者担当「これ、誰が回答しているんでしょうねえ」
私「無記名だよねえ。地方自治研究会の人が書いたのか、依頼で学者さんとか総務省自治体の役人とかが書いたのかもわからないと、意見の背景がわからないよねえ」
 それなりに権威がある雑誌での無記名記事には困ったものですが、以下に気になった点をいくつか。

(1)ただし、これは、個別の受託業者を選定することが必要です。間違っても、発注は個別に行ったが、契約相手は結果として同一業者であったということはあってはなりません。

 問題となったときに論議されるのは、形式論ではなくて実体論であることは認識していますが、個別の業務について入札を行うことにより明白に契約相手先の選定事由を説明できる状況においても、本文の指摘のように全面的にそれが否定されるかは疑問が残ります。

(2)その際には、利用料金の徴収については、使用料として徴収することができる旨の規定をおくことになります。

 なるほど、そうですね、なのですが、どのように規定するべきか悩むところです。
 利用料金と使用料は、制度として性格が異なる(極論として、算定の基準・方法が異なる事例もあり得ると思います。)ので、「利用料金」として規定された金額を「規定による読替え」の上で「使用料」として徴収することが妥当であるかは疑問が残ります。
 また、上限額として規定された範囲内で指定管理者が定めた利用料金(例えば、条例上の上限額200円→利用料金180円)について、指定取消しの場合に使用料として徴収するときは、利用料金の上限として規定された金額(例えば、200円)を「規定による読み替えの上」で使用料として徴収するとすれば、利用者にとっては実質的な値上げになってしまいます。このような場合は、次の議会で指定管理者が利用料金として定めていた金額に使用料の額を改めることになろうと思いますが、ことほどさように、万一の場合を想定した「読み替えによる徴収」の規定を行ったとしても、結局は緊急避難的なものにしかなりません。仮に「取消し後の使用料の額は、別表の規定にかかわらず、当該取消対象となった指定管理者が利用料金として定めた額とする。」という規定ぶりをするにしても使用料の性格からしてそのような規定ぶりが妥当であるかは疑問のあるところです。
 とはいえ、利用料金と併せて「万一の場合の」使用料の金額も併せて定めておくこともあまり現実的とは思えません。

(3)しかし、指定期間内の委託料の額を固定するのは、合理的とは思えません。指定管理者の経営努力により、当初の委託料より低額であっても、十分に公の施設を運営することが可能であるとわかれば、翌年度の委託料は減額すべきだからです。

 経営努力による運営費の減額は、本来的には指定管理者に対するインセンティブではないのでしょうか。インセンティブを担保し、選定の公平性を確保する意味でも「指定期間内の金額」を設定することが本来ではないのでしょうか。

(4)これに対して、個人情報保護条例においては、その多くは、当該地方公共団体保有する個人情報の保護を規定したものであり、民間事業者に対しては、その効力の及ぶ範囲に制約があるという条例の性質上、民間事業者に義務を課すと当該地方公共団体の区域内に住所を有する事業者には義務を課すがそれ以外の事業者には義務を課すことができないという不平等が生ずることから、道義的な責務を課すにとどまっています。

 条例の属域性として限界についての記述ですが、いくつか疑問があります。
 自治体の保有する個人情報に係る委託業者の取扱いに当たって、当該委託業者が区域外である場合に条例の効力を否定することは無いと思います(保護法益たる個人情報の侵害は区域内で行われていると解されるので)。具体的に言えば、罰則の適用も可能ではないか。
 委託業者は、対外的には地方公共団体の名前で事務を行っているため、上記の文章における「当該地方公共団体保有する個人情報の保護を規定したもの」の範囲に含まれるのに対し、指定管理者は自己の立場で処分を行うので上記の範囲に含まれないのではないか、という考え方もできるかもしれませんが、そもそもが「公の施設」を管理する立場であるので、委託業者と比べて責任の範囲を狭めることが妥当とは思えません。
 
 いろいろ書きましたが、指定管理者制度については、各自治体に自主解釈権と運営方針があるでしょうから、上記は一法制執務担当の私見とお含み置きください。