自治体法務の備忘録

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横浜市保育所民営化取消訴訟横浜地裁判決2

 表記の判決については、先日、id:AKITさんがまとめてくださった要旨をご紹介いたしましたが(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20060526/p2)、とりいそぎ、私自身が気になった点を書き留めておきます。

上記アないしウで検討したとおり,児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益は,いずれも法律上保護された利益であり,本件改正条例の制定は,このような利益を他に行政庁による具体的な処分によることなく,必然的に侵害するものである。また,本件改正条例は本件4園における保育の実施を解除するものであり,法はこれを不利益処分と位置づけていると解される。
これらのことからすると,本件改正条例の制定は,行政事件訴訟法3条2項所定の「処分」に該当するものと解するのが相当である。

とする条例の制定の処分性については、まだ議論されるべき余地が有るのではないか、と思わないでもない。この点、paco_qさんは、「発想としては面白いと思いますが,ややアクロバティックな気もします。」とご指摘されていらっしゃいます。(http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20060529/1148847644#seemore
 個人的な考えを述べれば、具体的な処分性は、個別の退園決定をもって認められるべきでないでしょうか。そして、その根拠となる条例の制定については、日本国憲法に基づき、議会制民主主義の下、自治立法の制定としてのプロセスを経ているわけです。当該自治立法自体が児童福祉法に抵触するとしても、その範囲内において無効となると解されるべきであり、はたして当該自治立法自体の処分性は認められるものであるのでしょうか。(まあ、原告救済のために、そもそも「処分性」の概念を拡大すべきだ、という論点は、さておき)
 この点についても、もうちょっと詳しく調べてみたい気もしますが、もう一方の気になる局面の、児童福祉法の平成9年改正の際の保育園「選択」に係る情報提供について、国会会議録を調べてみました。

【第140回国会 厚生委員会 第27号(平成9年5月21日)】
○横田政府委員 保育所の方が選択されるようになるということによりまして、おのおのの保育所というのは、それぞれ各施設ごとにできる限り創意工夫を凝らしまして、利用者に選択していただけるようなものにするような努力が促されるようになるのではないかというふうに考えております。これによりまして、より利用者、児童のニーズに即した保育サービスが行われるようになると考えております。

○横田政府委員 選択制に変わることによりまして、保護者が対応をどうしていくかという問題でございますけれども、私ども、選択に必要な情報をできるだけ広く公開いたしまして、それに基づきまして、利用者といたしましては、児童の特性あるいはみずからの就労状況等に合わせて、どういった保育所が適しているのか適していないのか、そういったことで適した保育所を選んでいただけるようこなるのでまないかというふうに考えておるところでございます。

○石毛委員 重ねてお尋ねいたします。
 先ほど、これからは利用者の方にとって保育所が選択しやすいように、保育時間の問題ですとか、定員の問題ですとか、職員配置の問題ですとかということを情報公開するというお話がありましたけれども、その情報公開の中には、保育方針ですとか、そういうことは入りますでしょうか。
○横田政府委員 保育所ごとの保育方針なども含まれるというふうに私ども考えておりますし、その方向で検討してまいりたいと考えております。

 うーん。「保育所ごとの保育方針なども含まれる」ですかそうですか。
 とはいえ、社会的情勢の変化等により、選択時には想定しえなかった「保育所ごとの保育方針」の変化が存在し得ることは否定し得ないのではないか、という点で、すべからく、民営化が、本件の判決のように市長の裁量権を越えると判断できるものではないでしょうね。(本件では、選択に当たって、保護者に十分な情報が提供が行われていなかったという事実が一番の問題でしょう。なお、横浜市において、実際に情報の提供が不十分であったか否かについての判断は、ここでは留保します。)入園して4、5年が経過するような人が「自分たちの選択時にそのような話しは聞いていない」と主張できることを認めるものではないと思います。
 横浜市は、控訴するのかなあ。成り行きに注目。