自治体法務の備忘録

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ガバナンスと政策法務

 杉山富昭氏が自治体経営・政策法務を論じるに当たって、企業のコーポレイトガバナンスとの比較について述べられていらっしゃいますが(http://seisakuhomu.blog.bai.ne.jp/?day=20060611)、まがりなりにも民間企業での勤務経験が有る立場から思いついたことをいくつか。
 入社後の振り出しが、本社でそれなりに専門性の有る部署でして、全国規模の展開をしている企業の個別の困難事例に少数精鋭で対処している自負が、まあ、それなりにあったわけですよ。そのことに対して、ある日、隣の係の係長から、ひょいと言われました。
「お前、専門家でござい、という顔をしてもね。技術的な問題はともかく、『会社としてよるべきところ』は厳としてあるわけで、ある日、俺がお前の係に異動して、その『よるべきところ』に従って仕事ができるのが『会社』だし、仕事ができなければ駄目なんだよ」
 さて、自治基本条例の功罪、その意味合いについては、いろいろ議論されるところですが、少なくとも、「自治体としてよるべきところ」を明白にしてみようという試みとしては、評価できるでしょう。
 先日、都市計画担当の方とお話ししたときにそのお言葉が印象に残りました。曰く、仮に景観に対処する条例を整備するとして、建築規制に伴う都市計画の想定だけであれば部内の調整でおさまるが、文化財保護法に規定する「重要文化的景観」までも視野に入れると、都市計画に係る条例では守備範囲を超える。それぞれに基本条例を立てるにしても並立する両者の調製をどのように行うか。なるほど、そのような「個別法の根拠」たる「自治体としてよるべきところ」を積み上げで編んでいくと「自治基本条例」になるのかもしれません。(それに比して、昨今の自治基本条例を巡る議論は、政治的なものに軸足がおかれている例が多いようで、どうにも危惧するところであります。)
 企業のコーポレイト・ガバナンスに話しを戻せば、「会社としてよるべきところ」が仮に明白であったとしても、それが顧客の満足度の向上に実質的に寄与するか否かは、私が属していた会社がそうであるというのではなく、法人営業で多くの顧客を相手にした経験からも、まあ、心許ない。むしろ、害する例もあろうというのは、言い過ぎでもなんでもありません。
 この点、自治体について言えば、branchさんご掲載の記事(http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary0606.shtml#0611)に関する六角潤さんの

対市民規律を内在しない自治政策法務論は、公権力という名の単なる暴力の侍女である。
http://propos.s27.xrea.com/20060611.html

というご指摘には深く頷かされます。
 自治基本条例の制定もその手段の1つとして(それが最善の手段だとは思いませんが)挙げられるように、現在の自治体は、そのアイデンティティを自ら模索している過程であるのではないでしょうか。