自治体法務の備忘録

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条例制定の処分性について

 横浜市の保育園に関する地裁判決における、条例制定の処分性に関する判断について掲載しました(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20060529/p2)が、資料によると、下級審では、条例制定に処分性を認める潮流があるようです。(まったく恥ずかしい)
枚方市

  • 平成17年10月27日大阪地裁判決
  • 平成18年4月27日大阪高等裁判所判決

高石市

  • 平成16年5月12日大阪地裁判決
  • 平成18年1月20日大阪高等裁判所判決

大東市

 いずれも裁判所のサイトには内容が掲載されていないので詳しい内容は不明ですが、平成18年1月20日大阪高等裁判所判決では「改正条例の制定による本件保育園の廃止により、直接、権利ないし法的利害を侵害されることになるから、改正条例の制定は抗告訴訟の対象である処分と解する。」とし、平成18年4月20日大阪高等裁判所判決では賠償を命じています。横浜地裁の判決が出る時点で、条例制定の処分性については既定であったと言って良いのでしょうね。
私「しかしね、条例が制定されたからと言って未施行の段階で処分と認定できるのかね。施行前の次の議会で内容が改正されることもあるわけだろう。施行後の個別の処分通知、例えば転園決定通知とかの時点に処分性を求めるべきなんじゃないの?」
後輩「それじゃ遅いから、ということなんでしょうね。もちろん、改正前の行政事件訴訟法では原告適格の要件を満たさなかったかもしれませんが、これは原告適格は積極的に認めようと言う改正の意図の表れではないですかね。」

行政事件訴訟法
原告適格
第9条 (略)
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

後輩「『斟酌』の範囲が条文からは不明ですが、『原告適格』という間口を広げようという意図でしょうかね。」
私「とはいってもね、条例の制定となると、そもそも議会の権能だし、立法権の侵害じゃないの?」
後輩「そういう意味では、違憲立法審査権に近いかも。」
私「違憲立法審査権って、具体的な紛争から離れた抽象的な訴えを認めないよね。法の施行前で具体的な処分が明確にならない時点での取消訴訟を認めるの?」
後輩「今回は取消訴訟ですが、改正後の行政事件訴訟法では確認訴訟についても明示されていますし、制定の段階でも当該条例の取扱いについてデリケートに対処しようという発想はあるんじゃないですかね。本件については、廃止される保育園に現に通園する児童がいるわけであって、抽象的な訴えとは言えないでしょう。」
私「でもなあ、行政手続法(行政手続条例)の守備範囲外で、行政不服審査法でも4条1項3号で適用除外だぜ。条例の制定後、行政の行為主体として取消訴訟がいきなり執行部に降ってくるの?」
後輩「だって、そこは『執行部』ですから」
私「うーん。」
 なお、上記それぞれの判決では、条例制定を処分であると認めた上で、廃止処分自体については裁量権の逸脱が認められないなどとして適法と判断しています。(横浜市での判決では、「被告が説明してきた理由は(略)早急な民営化を根拠とするには不十分である。」として違法の判断がされています。)
 となると、やはり、過去に私が掲載した記事において、少なくとも

社会的情勢の変化等により、選択時には想定しえなかった「保育所ごとの保育方針」の変化が存在し得ることは否定し得ないのではないか、という点で、すべからく、民営化が、本件の判決のように市長の裁量権を越えると判断できるものではないでしょうね。(本件では、選択に当たって、保護者に十分な情報が提供が行われていなかったという事実が一番の問題でしょう。なお、横浜市において、実際に情報の提供が不十分であったか否かについての判断は、ここでは留保します。)

という部分は的を射ていたと言って良いでしょうか。
 横浜市の事例については、「ガバナンス06年11月号」(ぎょうせい)に3ページの記事があり、ご興味ある方はご一読ください。