自治体法務の備忘録

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条例の前文

 洋々亭さんのところで話題になったとき、私もおもしろそうだと思ったのですが、忙しさに取り紛れるうちに十分な回答が寄せられたようでそのままになってしまいました。

一部改正条例で、前文を新たに置く場合の改正文を教えてください。
http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yyregi.cgi?mode=past&pastlog=17&subno=1951

 hoti-akさんが詳しくご考察されていらっしゃって、非常に勉強になります。(http://d.hatena.ne.jp/hoti-ak/20061125#1164381470
 技術的な問題について、私は、「法制執務詳解」に掲載されている、新たに目次を設ける例(281ページ)に準じて

 題名の次に次の前文を付する。

でいいんじゃないか、と思っており、氏のような深い考察がなかったのが恥ずかしいところ。まあ、どう書いたって、溶け込みますし(そんな自分の仕事を否定するような
 さて、新たに前文を設けること自体について、参議院法制局で紹介されている一部改正(http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column063.htm)や、branchさんがご紹介されているように、場合によっては第1条に目的規定に整理するために廃止することもある(http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary0609.shtml#0918)のであれば、hoti-akさんがご指摘のとおり、新たに追加することについてもやぶさかではなかろう、とは思います。まあ、担当課からその趣旨の照会があった場合は、私も「一部改正で前文付与なんておやめなさい」と言うと思いますが。
 自治体の条例における前文の付与について、市という村の法担さんが「地方公務員のための法制執務の知識」の記事を引用されていらっしゃいます。

前文は,憲法のように格調高い理想をうたいあげる場合には必要であるかもしれないが,・・・条例に前文を設ける必要はない。・・・法令の一部として,直接の法的効果をもたない精神的・政策的文章を織りこむことは邪道であり,悪趣味以上のものがある。

 引用ページの記載無く、私の手元にある全訂版第4版では記載が確認できないままで恐縮なのですが、以前にもちょっと書いたように(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050419/p1)、分権前に上梓されたこの書籍は、記載の内容が現在の自治体法務の現状にそぐわなくなってきている側面があるのではないか、と思っています。
 目的規定とのその内容的重複から前文は不要との意見を否定はしませんが、私が最近書いた条例の例ですと、市民や有識者を交えた審議会からの答申にもとづいて構成をしようとする場合において、市に期待される「想い」が既存の法体系の中でどれだけ表現できるのか、と苦しんだことがあります。それは具体的な政策の問題でしょう、と言ってしまえばそれまでなのですが、その具体的運用に際しての指針や明確な根拠とするべく前文を設けるのは、政策法務論的に肯定しうるのではないか。逆に言えば、分権以降の自治体における独自条例に前文が設けられる例が多いのは、上記のような理由によるのではないのでしょうか。
 分権後における各自治体の独自条例の制定の試みは、その「アイデンティティ」を自ら模索している過程ではないのか、というのが個人的な考えですが、「悪趣味」と言われようと足掻き、訴えていくのが今の自治体法務なのではないかと思うところです。