自治体法務の備忘録

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パブリックコメントの周辺

 標題に係る昨日の記事(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070723)についてjoho_triangleさんにトラックバック頂きました。お忙しいところありがとうございます。
 まず、

パブリックコメント手続を経なかったものの効力はどうなる?】
 一応,私的な解答案のようなもの。あくまで私的な解答案のようなものにしか過ぎず,全くの個人的見解を少なからず含めていますので,ご注意を。
 パブリック・コメント手続は,現状においては,あくまで意見公募手続であって,意見を提出する権利,提出した意見内容を原案に反映してもらう権利などといったものまでは認められていないと考えられる。したがって,「手続に瑕疵があったとしても,それが,(いわゆる)『重大な瑕疵』でない限りは,当該行政立法は有効である」と解され,たとえば,特に何らかの権利を侵害したということを理由として,訴えを提起することはできないのではないか。ただし,「同手続をとらなかった職員については,職務義務違反で責任を問いうる」ことは考えられうる。
http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20070724/p2

 この分野の嚆矢である横須賀市パブリック・コメント手続条例においても、その設計に当たって検討された「市民に『意見提出権』を保証すべき」という意見は、結果的に採用されなかったそうです。以下は詳細です。ご参考まで。

 また、意見提出権を創設した場合、その権利侵害に対し救済制度を整える必要がある。逆説的であるが、重要な施策に対しての市民意見提出手続であるがゆえに、行政運営の混乱も想起されたことから、本条例制定段階では、意見提出権の創設は困難であるとした。しかし、「苦情の申出制度」を設けて適切な措置を講ずるといった救済方法も考えられるので、効率的な行政運営との調整を図りつつ、検討する必要があると認識している。
(103ページ)

改正行政手続法とパブリック・コメント

改正行政手続法とパブリック・コメント

 この度の論点からはちょっと脱線しますが、「救済方法」の想定とは興味深い指摘です。
 また、この問題についてはtihoujitiさんが上記のjoho_triangleさんの記事でご紹介された書籍(でしょうか)に触れられて以下のようにご考察をされています。

 ということは、それらの訴訟・手続においてパブコメ手続の瑕疵を争う場合は、こういったやりとりが繰り広げられるのだろうか。

相手方「パブコメが実施されていたら、こういう意見を提出することができた。この意見が反映されていたら、この処分は無かった。」
行政側「そのような意見が仮に提出されていたとしても、こういう理由で反映させなかった。」

 なるほど。争点は、相手方が提出できた意見に対し、行政側がその意見を採用しないこととした理由に合理性があるか、なのだろうか。ということは、パブコメが実施されていた場合には、提出されていた意見があった、ということが大前提なのだろう。
http://d.hatena.ne.jp/tihoujiti/20070724#p1

 いろいろ検討できそうですね。
 さて、joho_triangleさんがご指摘の事項のもう一点、

【Re:行政庁間のパブリック・コメントの運用】
 より具体的にいえば,個人的にパブリックコメント制度を評価する一面として,同制度によって,「条例等の制定改廃等に関する素案及び検討資料が示され,当該素案に対する意見や情報,それらに対する行政の考え方等が公表されること」,そして,こうした「情報の蓄積が,各自治体ごとの政策情報アーカイブになりうること」を挙げているのですが,果たして「新たに創出する手続」にも,そのような「住民に対する情報公開ないし情報アーカイブ化」が期待できるかといえば,あくまで「自治体」と「自治体」との間における手続・制度でしかないものとなってしまうのではないか,と考えたからということができます。
 このことは,
>「(パブリック・コメント手続の)案が出来る前にちょっと関わらせろや」
といったときにも,同じようなことが言え,住民側からすると,どのように関与したのか・されたのかについても,知ることができればありがたいにも関わらず,知ることができない情報となってしまうのではないか,と考えられなくもありません。そもそも,こうした「住民に対する情報公開ないし情報アーカイブ化」を求める考えは,たとえば「率直な意見交換ができなくなる」といった観点から,回避される可能性が高いのも確かではないか,と思われますし。
http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20070724/p3

 実は、一般の方々と同じ土俵で行政庁同士がやりとりする意見・情報の公開化こそがjoho_triangleのご意向であろうかとは思ったものの、それは澤俊晴さんがご指摘された、磯崎初仁先生がご提唱の「自治体間の垂直的な関与・参加、水平的な連携・協力的な関係に関する条例」の法設計によれば良いものであろうと記述を省いてしまいました。
 なるほど「アーカイブ化」という視点は興味深く、パブリック・コメントの結果の取扱いの「活用」という点で、行政庁から寄せられた意見・情報も一般の方々からのものと同等に扱うことも検討されるべきかもしれません。
 一方で、行政庁同士のやりとりが上記の「自治体間の垂直的な関与・参加、水平的な連携・協力的な関係に関する条例」に基づいて実施されたものであっても、当該事項を「活用」の為に積極的に「アーカイブ化」するべき手法もあろうかとも思いますが、まあ、それは法設計でしょうな。
 いずれにせよ、実施からまだあまり間がないパブリック・コメント手続という手法の取り扱いについて、引き続き多様な観点から研究が進められるべきでしょう。