自治体法務の備忘録

管理人のTwitterは、@keizu4080

広島市暴走族追放条例の考察(その2)

 広島市暴走族追放条例に関する法制執務的な問題点については、最高裁の少数意見の一部に同市の例規を引いて昨日掲載しました。→http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20070925/p1
 では、上記の広島市条例を類似する条例と比較してみると、どのような問題点が見えてくるでしょうか。
 いわゆる「暴走族追放条例」に刑罰を導入する嚆矢となった姫路市条例(平成13年に制定)では、「期待族」による「あおり行為」が罰則の対象になっていますが、私がまだ港区にあった頃の自治大学校で当該条例を起草された方からお話しを伺った内容では、罰則の対象とするに当たり、その規定ぶりについてはデリケートに対処されたとのことでした。

姫路市民等の安全と安心を推進する条例】
 (暴走行為の助長等の禁止)
第9条 不特定多数の者が、暴走行為をする者又は暴走行為に対する警察による取締りを見物する目的で道路、公園、広場、駅その他公衆が出入りすることができる場所に集合した場合において、当該目的でその場所に集合した者は、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 現に暴走行為をしている者に対して、声援、拍手、手振り、身振り又は旗を振ることにより、暴走行為をあおること。
(2) 2人以上共同して、正当な理由がないのに、顔面の全部又は一部をその者を特定することができない程度に覆い隠して、他人に不安を覚えさせるような仕方で群がること。
(3) 2人以上共同して、暴走行為をする際に使用する集団の名称を示すような文言(記号を含む。)を強調するように刺しゅうした服を当該刺しゅうが見えるように着用して、威勢を示すような姿で通行すること。
 
 (罰則)
第12条 重点禁止区域において第9条第1号の規定に違反した者は、5万円以下の罰金に処する。

 顔面を覆い隠したりすることや、刺しゅう服について記載があるのは広島市条例と同様ではありますが、不特定多数の者による、暴走行為に係る「集合」に参加する者を明確に規制の対象としている点で広島市条例と異なります。
 最高裁判決の少数意見で指摘されるように、広島市においては、これらの記載が規則における「中止命令等の判断基準」として規定している点で、規制の対象と明確にリンクしないきらいがあります。
 とはいえ、条例における罰則の規定が不明瞭であるとして、委任に基づく規則に具体的事項を規定することは罪刑法定主義の点から望ましいことは言えず、条例の制定時において十分な設計が不足していた懸念は拭いきれません。
 なお、規則における「中止命令等の判断基準」たる「その他社会通念上威勢を示していると認められる行為」という包括的な規定は、条例上の禁止主体である「何人も」という規定と併せて、憲法に保障される集会の自由に反すると指摘されてもむべなるかな、という気はします。
 広島市条例については、沖縄市条例を中心に論じた仲地博教授(琉球大学)の論文(http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/1669/1/No69p73.pdf)によると、条例の審議段階で広島弁護士会が慎重審議を求め、自由法曹団広島支部は、基準が抽象的で集会の自由を侵しかねないと反対を表明していたとのことであり、また、昨日の私の記事についてトラックバックいただいたotsukare_modeさんもご指摘のように(http://d.hatena.ne.jp/otsukare_mode/20070925/1190743365)、付託された予算特別委員会審議で提出された修正案が否決されていたという経緯があることも注目すべき事項でしょう。
 さて、上記の姫路市条例では「期待族」を規正の対象としており、暴走行為自体は守備範囲外としていますが、ネットの記事によると、この種の条例に基づいて初の逮捕者を出した佐賀県の条例では、このたび広島市条例において問題になった箇所について、以下のように記載されています。

佐賀県暴走族等の追放の促進に関する条例】 
 (暴走行為に関する禁止行為)
十三条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
 一 暴走行為をすることを目的として、公共の場所に集合する行為
 二 他人に対して、暴走行為を行うよう強制し、又は勧誘する行為
 三 公共の場所(道路を除く。)において、正当な理由なく、自動車等を急に発進させ、急に加速させ、急に転回させ、蛇行させ、若しくは急に停止させ、又は自動車等の原動機の動力を車輪に伝達させないで原動機の回転数を増加させることにより、著しく他人に迷惑を及ぼし、又は他人に危険を感じさせ、若しくは不安を覚えさせる行為
 
 (あおり行為の禁止)
第十四条 何人も、不特定又は多数の者が集合し、又は群がっている公共の場所において、現に暴走行為を行っている者に対し、あおり行為(暴走行為を助長する目的で、声援を送り、拍手、手振り若しくは身振りを行い、又は旗、鉄パイプその他これらに類するものを振ることをいう。以下同じ。)をしてはならない。
 
 (罰則)
第二十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
 一 第十三条第二号又は第三号の規定に違反した者
 二 重点禁止区域において、第十四条の規定に違反した者

 上記の規定はいずれも平成16年の改正で追加されたものであるので(当初の条例自体は平成12年に制定)、平成14年に制定された広島市条例に比して後続の利があったかも知れませんが、「集合」について、その目的を明文化することにより解釈がぶれることを防いでいます。
 脱線して、ちょっとおもしろいな、と思ったのは、「暴走族」の集合(13条1号)については罰則規定がないのに対して、「期待族」の集合(14条)には「暴走行為」と同等の罰則規定があるのですね。なるほど、「期待族」の「あおり行為」と「暴走行為」は相関関係にあり、同等の処罰が適当ということでしょうか。
 前述の仲地博教授の論文には、上記の姫路市条例以降もそれぞれの自治体の地域の実情に応じた法設計が実施されている旨の記述がありますが、政策法務時代の法務担当者に求められるものの一つは、ニーズに応じて適正に法制執務を遂行する能力と言って良いでしょう。