自治体法務の備忘録

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隣にあるのに直せない 

 ボツネタ掲載の記事から

【同じ法律なのに,「申立て」と「申立」が混在している 戸籍法】

第百十八条 戸籍事件について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立をすることができる。
 
第百十九条の二 戸籍事件については、行政不服審査法 (昭和三十七年法律第百六十号)による不服申立てをすることができない。

http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/20071224/p6

 これに対するbranchさんのコメントが、法制執務にご興味を持たれる方の御参考になるか思われますので以下に引用させて頂きます。

法制執務をかじった立場から若干の解説をいたしますと、

  • 御指摘の混在は、戸籍法制定当時は「申立」が正規の表記であったが、第119条の2が追加された昭和37年には「申立て」が正規の表記となっていたために生じたもの。
  • 改正時に平仄がとられなかったのは、法令の改正は最小限度において行うべきものであって、実体についての改正がなされないような改正は行うべきではない、という考え方に基づき、被改正法令の改正されない部分の表記で新基準に合致しないものがあっても、特別の必要のない限り、新基準に統一するための改正をしなくてもよく、改正された部分と改正されなかった部分で同一の内容を表す語が異なる表記となっても差し支えない、という法制技術的な慣習があるため。
  • 先のコメント↑のとおり、平成19年法律第35号により現行の第118条中「申立」が「申立て」に改められることになるが、これは、同条について実質改正があったため、併せて改正することとなったもの。

ということかと思われます。同様の表記のぶれは、「行う」「行なう」など少なからず存在します。

 実は、戸籍法からの上記引用の間にある第119条中の文言についても、昭和59年法律45号で当初の「申立」から「申立て」に改められたところまで調べて、さてコメントしようかと思ったところでbranchさんの上記の文章を見つけたことは内緒だ。
 さて、以下は自治体に出向時のbranchさんがご掲載の記事について、2年前に私が掲載させていただいた記事です。

 branchさんのところから

ちなみに、市町村あたりでは、条例や規則を改正する際、実質改正のない部分であっても、字句の整理と称して平気で『第○条中「行なう」を「行う」に改める。』とかいう改正をしていたりしてキモチワルイのですが、そういうのを目にしたときは、国の法令と地方公共団体例規は似て非なるもの、と念仏のように何度も唱えてスルーすることにしています、、、。
http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary0511.shtml#1115

 そーなんですよーほんとーはやっちゃいけなんですよー(誰に言う)
http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20051115/p1

読む人間のことや後の執務の効率を考えれば、むしろ自治体の姿勢のほうが望ましい姿であって、最小限度云々というのは所詮、手書き時代に手間を省くために作られた理屈にすぎないのではないかと私は思うのですが。
http://d.hatena.ne.jp/washita/20051115/p1

 のご意見に対するbranchさんのコメント

要は、両者(【引用者注】国と地方公共団体)の平仄が合っていないのがキモチワルイ、ということです。

 骨身にしみられた法制執務に萌え(えー
 もちろん、例規を見る一般の方は「語句の整理」がされていないことを「キモチワルイ」と思う訳でありましょうから、市民に「読まれる」「理解ができる」「使える」例規としての整備に異論はないです。
http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20051117/p2

 とはいえ、実際に古い法令を見るとね、語句の言い換えだけじゃ済まないことが多くて、文章の構成自体が現在の法制執務のルールに適合しないケースがままあります。例えば、項番号の記載や見出しが無いものだってあるわけです。
 条項数が限られる自治例規であればまだしも、その分量が多い法令の場合ですと、全般的な見直しは政策的目的(民法の口語化とか)に基づく慎重なものであればまだしも、小手先にとどまっては危険性が伴います。
 もちろん、単なる「語句の修正」により法文がころころ変わるべきでない「法の安定性」からの見地でもあります。

 以前、条項の実質的な改正の伴い、同条項の字句の整理として「各号の一」を「各号のいずれか」に改めたところ、担当課の管理職に聞かれました。
相手「『各号の一に』と『各号のいずれかに』の法的な意味の違いってあるの?」
私「ないです。」
相手「こういう法令における『言い回し』の変化、というのか、そのよりどころ、基準って何なの?」
私「そうですね。しいて言えばトレンドかと」
(略)
相手「隣の条にある『各号の一に』は直さない、んだよねえ。実質的な改正がないから」
私「ええ。」
相手「こうやって、部分部分で改めていって直しきらないうちに、新しいトレンドを追っかけることになるんじゃないかね」
 だって、それが法制執務の本懐ですから(違う)
http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20051129/p1

 なお、「申立て」自体については、戸籍法に第119条の2が追加された昭和37年以降ではありますが、「法令における漢字使用等について」(昭和56年10月1日内閣法制局総発第141号)において「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)によるところとされており、単に「トレンド」とは言えません。為念