自治体法務の備忘録

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行政事件訴訟法の改正と市の事務

 さて、このたびの最高裁による判例変更は、上記の報道でも指摘されるように、行政事件訴訟法の改正によるところが大きく、また、行政の事務執行に対する影響力はかなりのものがあります。
 しかしながら、実のところ、4年前の同法の改正に当たっては、自治体法務の現場における警戒心は決して大きいものではありませんでした。
 というのも、行政事件訴訟法の改正は、基本的には司法制度改革であるので、処分に際しての書面による行政訴訟に係る教示を除き、行政手続法や行政不服審査法のように、直接的に市の事務変更を要請するものではなかったからです。
 このたびの判決に関する記事を読んで、当時、私自身はイントラネットを利用して法改正について概要の説明に併せ、川崎市職員のご経験を持つ山口道昭先生(立正大学)が書かれた以下の文章のご紹介をさせていただき、同法の改正の内容が市の事務に与えうる影響について職員の理解を深めるべく努めたことを思い出しました。

 改正法は、行政訴訟を起こしやすくし、審理においても実体判断をしようとしているだけで、原告勝訴の促進を目的にしているものではない。実態審理の結果、あいかわらず自治体が勝訴することも多いであろう。訴訟が起こしやすくなったために、濫訴気味に訴訟件数が増え、結果的に自治体勝訴率が高まる、といった事態も起こりうるかもしれない。
 しかしながら、訴訟の結果は予想するしかないものであっても、訴訟自体は必ず増加し、行政の活動が裁判所によって実体的に審理される機会が増えることは確実である。(略)
 こういった事態は、自治体において訴訟が例外的な現象でなくなることを意味している。行政の活動が適法なものであっても訴訟の場に引き出されることがあるということを念頭に置いた上で、行政は、活動しなければならない。(略)
「NewsLetter自治体学会」No.112「改正行政事件訴訟法自治体法務」

 また、併せて、当時は横須賀市都市部都市計画課総括主幹でいらした出石稔先生(関東学院大学)から伺った、

  • 行政訴訟を、「病理現象(あってはいけないもの)」から「生理現象(あって当然のもの)」への位置づけへ

という職員が訴訟に対して前向きの意識になる必要性についてもご紹介させて頂きました。
 「kei-zuさん、大変なことになりましたね!」と、このたびの記事を持って飛び込んでくる、許認可関係の職員の姿を見て、いささかでも当市のアドバンテージに貢献できたのではないかと密かに自負するところです。
 「コンプライアンス」という言葉が特にやかましく言われるようになったのは昨今ではありますが、訴訟までをも念頭においた法運営は、何よりも自治体の自主解釈権が発揮されるべき側面かとも思います(「自分の言葉」で説明できなければ戦えない)。
 いずれにせよ、時間が経過して判例が蓄積されていく中で、自治体の法務能力がますます問われていく事態にあると言ってよいでしょう。