自治体法務の備忘録

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建築確認と被告適格

 よその自治体の話しなんですが、と前置きの上で聞かれました。

  • 民間の指定確認検査機関が、建築確認を行い、確認済証を交付した。
  • 周辺住民が、特定行政庁の建築審査会に、確認処分の取り消しを求める審査請求を提起した。
  • 建築審査会の棄却決定について、裁決の取消しの訴えが自治体に対して提起された。

先方「確かに裁決を出したとはいえ、民間が出した建築確認について、自治体が訴訟の相手方になっちゃうんですかね?」
私「『処分』と『裁決』については、それぞれの行為の主体となった行政庁に被告適格があるんだよ」

行政事件訴訟法
(被告適格等)
第十一条 処分又は裁決をした行政庁(処分又は裁決があつた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁。以下同じ。)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない。
 一 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体
 二 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体
2〜6 (略)

先方「じゃあ、裁決については自治体に被告適格があるんですね」
私「そういうこと。でも、『原処分主義』だから、処分の違法性を巡って自治体を訴えることは、基本的にはあまり意味がないんじゃないかな」

(取消しの理由の制限)
第十条 (略)
2 処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。

 本項は、原処分の取消しの訴えとその原処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えの双方を提起できる場合につき、原処分の違法は処分の取消しの訴えにおいてのみ主張することができることとし(原処分主義)、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、裁決の手続上の違法などの裁決固有の違法のみを主張することができるだけで、原処分の違法を理由として裁決の取消を求めることはできないことを規定したものです。
「新行政事件訴訟法 逐条解説とQ&A」村田斉志(新日本法規)50頁

先方「じゃあ、原処分である、民間の指定確認検査機関が行った行為の取消訴訟って、誰に提起するんですか?」
私「さっき読んだ第11条の第2項に規定があるよ。民間の指定確認検査機関が『行政庁』である場合は自らが被告になるわけだね」

(被告適格等)
第十一条 (略)
2 処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない。
3〜6 (略)

建築基準法が定める指定確認検査機関として民間業者が建築確認を行う場合(建築基準法6の2)には、当該民間業者を被告として建築確認を提起していくことになる。
「詳解 改正行政事件訴訟法」大橋真由美(第一法規)151頁

先方「なんで先方は原処分について訴訟しなかったんでしょうか」
私「どうしてだろうね。改正行政事件訴訟法で拡大された原告適格にも自らが適合しないと判断したか、民間業者に行政訴訟を提訴する発想がなかったか。あるいは、建築審査会の裁決書で教示された、裁決についての訴訟の提起に関する記述に単に従ったのかもしれないね」
先方「だけど、民間の指定確認検査機関が行為に関する賠償の責任って、特定行政庁を置く自治体が負うんですよね」
私「よく知ってるね(泣)。最高裁判決(平成17年06月24日 第二小法廷)が出たときは、業界関係者一同たまげたよ」

 様々な公私協働形態の登場により、国・地方公共団体に所属しない法人あるいはその機関に行政処分権限が与えられる現象が増大している(略)が、その場合の抗告訴訟の被告適格者は、上述のように、当該機関が所属する法人と解される。
 ここで、国賠法1条における賠償責任者は事務帰属主体と解する判例最判昭54・7・10(略))の立場に従うと、抗告訴訟と国賠法で被告が異なる事態が生じることとなり、問題を生ぜしめうる(略)。
自治体法務サポート 行政訴訟の実務」角松生史(第一法規)467頁

先方「それって…なんかおかしくないですか?」
私「いや、俺自身も納得いかない部分はあるよ。学説にも批判はあるんだ」

指定検査機関は国から公権力にかかる事務の遂行を委任されるが、そのことによって、国と指定機関の間に上下の行政庁関係が成立するわけではないし、制定法上にこれをあえて行政官庁関係として整理しているわけでもない(略)。その意味において、当該指定機関(指定法人)は、機関委任事務と異なり公権力の行使を自己の権限として、自己の計算によって行うものとして、国家賠償法上の公共団体とみるべきものである。その点からも事務の(究極の)帰属と主体のもつ意義はあまりないといえよう。
行政法II」塩野宏有斐閣)273頁

私「いずれにせよ、この分野は引き続き研究が進んで欲しいねぇ」