自治体法務の備忘録

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住基ネット不参加に初の是正要求 総務相、国立市に

 鳩山邦夫総務相は13日、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)に接続していない東京都国立市に対し、是正を要求するよう都知事に指示した。地方自治法に基づき、国が自治体に対する是正指示権を発動するのは初めて。
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009021301000435.html

 総務省のサイトにも報道資料がアップされていました。

国立市住基ネット不接続団体)に係る是正の要求の指示 】
本日付で、国立市住民基本台帳法(以下「住基法」という。)の規定に基づく事務の執行について、総務大臣より東京都知事に対して指示を行いましたので、お知らせします
http://www.soumu.go.jp/s-news/2009/090213_7.html

 事例としては誠に珍しいので、条文を確認してみましょう。

地方自治法
(是正の要求)
第二百四十五条の五 (略)
2 各大臣は、その担任する事務に関し、市町村の次の各号に掲げる事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該各号に定める都道府県の執行機関に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを当該市町村に求めるよう指示をすることができる
 一 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する事務(第一号法定受託事務を除く。次号及び第三号において同じ。) 都道府県知事
 二 市町村教育委員会の担任する事務 都道府県教育委員会
 三 市町村選挙管理委員会の担任する事務 都道府県選挙管理委員会
3 前項の指示を受けた都道府県の執行機関は、当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めなければならない。
4 各大臣は、第二項の規定によるほか、その担任する事務に関し、市町村の事務(第一号法定受託事務を除く。)の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
5 普通地方公共団体は、第一項、第三項又は前項の規定による求めを受けたときは、当該事務の処理について違反の是正又は改善のための必要な措置を講じなければならない。

 都道府県の関与が規定されていることが、分権前の名残をとどめていると言えるでしょうか。
 さて、国会における大臣答弁の中では、都道府県が各大臣の指示に従うときは、その内容を納得しているときであって、そこで生じた問題は都道府県が負うものとされています。「国−都道府県−市町村」の明確な序列を避ける意図かもしれませんが、都道府県の立場が不安定である印象はぬぐえません。

平成11年06月10日 衆議院 行政改革に関する特別委員会
○野田(毅)国務大臣 大変ややこしい感じなんですけれども、今お示しいただいたこの絵でいきますと、まさに自治紛争処理機関というのは、cの段階、都道府県から市町村に対するこの段階における係争問題である。それから、通例、この場合aですね、国が都道府県に対して指示を行う、その指示を受けてcという行為が行われる、こういうことでしょう。
 そこで、大事なポイントは、国から都道府県に対するaという指示について、都道府県がこれは問題だということであれば、この段階でまさに国と地方の係争処理機関にかけてもらうということになると思います。したがって、その上でcという行為を都道府県がおやりになるということは、みずからの主体的な判断として、少なくとも指示を受けた都道府県が、単に国の手足として市町村への関与を考えなしにやったというのではなくて、まさにみずから主体的な意思決定を行った上でcという行為が行われることでありますから、そういう意味で、このc、つまり都道府県から市町村に対する関与ということがもう一つの自治紛争処理委員の方にゆだねられていくという手順になるということでございます。
 くどいようですが、もし都道府県がみずから出した指示が、つまり不本意ながら出すというのなら、本当に不本意であるのなら、指示を出す前に、aの段階、国からの指示があった時点で国と地方の紛争処理機関にかけていただくなり申し出をしてもらうということの流れになると思います。

 上記に言及される、「是正の要求」に関する、自治紛争委員会への審査の申し出については、以下のように規定されています。

(国の関与に関する審査の申出)
第二百五十条の十三 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの(次に掲げるものを除く。)に不服があるときは、委員会に対し、当該国の関与を行つた国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる
 一 第二百四十五条の八第二項及び第十三項の規定による指示
 二 第二百四十五条の八第八項の規定に基づき都道府県知事に代わつて同条第二項の規定による指示に係る事項を行うこと。
 三 第二百五十二条の十七の四第二項の規定により読み替えて適用する第二百四十五条の八第十二項において準用する同条第二項の規定による指示
 四 第二百五十二条の十七の四第二項の規定により読み替えて適用する第二百四十五条の八第十二項において準用する同条第八項の規定に基づき市町村長に代わつて前号の指示に係る事項を行うこと。
2〜3 (略)
4 第一項の規定による審査の申出は、当該国の関与があつた日から三十日以内にしなければならない。ただし、天災その他同項の規定による審査の申出をしなかつたことについてやむを得ない理由があるときは、この限りでない。
5 前項ただし書の場合における第一項の規定による審査の申出は、その理由がやんだ日から一週間以内にしなければならない。
6 第一項の規定による審査の申出に係る文書を郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第六項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第九項に規定する特定信書便事業者による同条第二項に規定する信書便(第二百六十条の二第十二項において「信書便」という。)で提出した場合における前二項の期間の計算については、送付に要した日数は、算入しない。
7 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、第一項から第三項までの規定による審査の申出(以下本款において「国の関与に関する審査の申出」という。)をしようとするときは、相手方となるべき国の行政庁に対し、その旨をあらかじめ通知しなければならない。

 そして、その決定の内容に不服があるときは、自治体は高等裁判所に訴えの提起をすることができるとされています。

(国の関与に関する訴えの提起)
第二百五十一条の五 第二百五十条の十三第一項又は第二項の規定による審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となつた国の行政庁(国の関与があつた後又は申請等が行われた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない。
 一 第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告に不服があるとき。
 二 第二百五十条の十八第一項の規定による国の行政庁の措置に不服があるとき。
 三 当該審査の申出をした日から九十日を経過しても、委員会が第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による審査又は勧告を行わないとき。
 四 国の行政庁が第二百五十条の十八第一項の規定による措置を講じないとき。
2 前項の訴えは、次に掲げる期間内に提起しなければならない。
 一 前項第一号の場合は、第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
 二 前項第二号の場合は、第二百五十条の十八第一項の規定による委員会の通知があつた日から三十日以内
 三 前項第三号の場合は、当該審査の申出をした日から九十日を経過した日から三十日以内
 四 前項第四号の場合は、第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
3 第一項の訴えは、当該普通地方公共団体の区域を管轄する高等裁判所の管轄に専属する。
4 原告は、第一項の訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を被告に通知するとともに、当該高等裁判所に対し、その通知をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
5 当該高等裁判所は、第一項の訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を指定し、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
6 第一項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
7 国の関与を取り消す判決は、関係行政機関に対しても効力を有する。
8 第一項の訴えのうち違法な国の関与の取消しを求めるものについては、行政事件訴訟法第四十三条第一項の規定にかかわらず、同法第八条第二項、第十一条から第二十二条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条、第三十二条及び第三十四条の規定は、準用しない。
9 第一項の訴えのうち国の不作為の違法の確認を求めるものについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項の規定にかかわらず、同法第四十条第二項及び第四十一条第二項の規定は、準用しない。
10 前各項に定めるもののほか、第一項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

 なお、住基ネットを巡っては、03年6月に、福島県と東京都が、それぞれ矢祭町と中野区、杉並区、国立市に「是正の勧告」を行った経緯があります。こちらは根拠となる条文が異なる。

(是正の勧告)
第二百四十五条の六 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを勧告することができる
 一 都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する自治事務
 二 都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する自治事務
 三 都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する自治事務

 「勧告」自体は、「要求」ほどの積極性を持つものではなく、「助言」に近い位置づけであるようです。その性格のため、「是正の勧告」への対処は尊重義務にとどまり、都道府県の関与についての審査を所掌する自治紛争処理員へ審査を申し出ることはできません。
 これらは自治事務を巡る規定ですが、法定受託事務の場合は、もっと関与の度合いが大きい法構成がなされています。
 とはいえ、いずれにせよ、自立した運営を期待される自治体への関与は、必要最小限度とどまられるべきでしょう。