自治体法務の備忘録

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議場の執行部出席者

 先頃、ある自治体の方から、執行部からの議場出席者について照会がありました。
 当市の状況について回答させてはいただきましたが、それぞれの団体のご判断と慣習でしょうから、あまり参考にはならないのではないでしょうかね、とは付言させていただきました。
 さて、議場の出席については、首長や各機関の長のほか、部局長(その補佐役としての幹部級職員が臨席している例もあり)が名を連ねるのが一般的であろうかと思うのですけれど、法律で要請される出席者は、実は限定されています。

地方自治法
第百二十一条 普通地方公共団体の長、教育委員会の委員長、選挙管理委員会の委員長、人事委員会の委員長又は公平委員会の委員長、公安委員会の委員長、労働委員会の委員、農業委員会の会長及び監査委員その他法律に基づく委員会の代表者又は委員並びにその委任又は嘱託を受けた者は、議会の審議に必要な説明のため議長から出席を求められたときは、議場に出席しなければならない。

 日本初の議会基本条例を定めた栗山町では、その条例の中で、執行部への出席要請を最小限にとどめる旨を規定しています。

【栗山町議会基本条例】
(自由討議による合意形成)
第9条 議会は、議員による討論の広場であることを十分に認識し、議長は、町長等に対する本会議等への出席要請を必要最小限にとどめ、議員相互間の討議を中心に運営しなければならない。
2・3 (略)

 この内容について、神原勝教授(北海学園大学)は、条例制定時に以下のように講演されています。

栗山町発・議会基本条例 (地方自治土曜講座ブックレット)

栗山町発・議会基本条例 (地方自治土曜講座ブックレット)

 これまでどこの自治体もやったことのない思い切った改革です。これは執行機関に対する質問のみに偏重した長年の議会運営の慣習からの転換を意味しています。(略)
 (略)議会審議は、首長など行政関係者対議員個人のかたちをとり、議員が相互に意見を交換する、いわゆる「自由討議」が行われることはほとんどありません。それに、執行機関側の議会出席が常態化すると、とくに職員数の少ない小規模な自治体では、行政活動にも様々な弊害が出てきます。
(80〜81頁)

 また、これに先だって、片山県知事時代の鳥取県の試みも、書籍では紹介されています。

“改革”の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦

“改革”の技術―鳥取県知事・片山善博の挑戦

 これに加え、次長級職員たちが本会議に出席する慣例を知事が突然やめさせたことがさらなる反発を招いた。従来、十数人の次長級職員たちは、本会議の開催中、部長席の後ろで待機していた。机もなく、他の次長たちと肩を接して座らざるを得ない劣悪な環境で一日五時間以上にもおよぶ質問戦を聞かされていた。理由は「答弁の補佐」だったが、実体は「居眠りを我慢する修行の場」(次長経験者の一人)と化していた。また、本会議がある日は部長と次長が不在となり、各部の業務が滞る弊害もあった。
(略)
 議会側が「縦割り行政の弊害をなくすためにも次長級が担当分野以外の議論を聞く必要がある」などとしたのに対し、知事は「議場は(庁内放送で)各課のテレビでも見られる。次長級以下が答弁することはなく、機械的に次長が全員いる必要はないし、そもそも議会に了解を求める事項ではない」と反論した。結局、知事と議会の双方が譲り合った。知事は当初、次長とともに答弁のない部長も欠席させようとしていたが、答弁の有無を問わず、部長級は全員出席させることになり、次長級の欠席は認められた。
(77〜78頁)

 なお、同書では、鳥取県知事時代の片山教授(慶応大学)のご実績として、奇をてらった県政の運営ではなく、憲法自治法が要請する適正な役割の遂行に関する実践が、多く記載されています。それが、こと「改革の【技術】」と書名に記される所以でもありましょう。
 であればこそ、物議を醸した「地方議会は学芸会」との刺激的なご発言は、地方議会の役割へのご期待の裏返しであろうかとも思います。