自治体法務の備忘録

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続・「住民自治」の意味とは

 先般、「住民自治」の語が、最近は従来とは違った使われ方としていると今井照先生(福島大学)が「ガバナンス」誌に記述されていた旨をご紹介しました。

 最近、「住民自治」という言葉の理解、使い方が変質しているのではないか。本来は、まさに自治体政府を住民がどうガバナンスしていくか、統制していくかが住民自治と言われてきた。だが、最近、研究者でも「住民が自らやるべきことをやるのが住民自治だ」などと異なる使い方をしている人たちがいます。

 教科書を引けば「住民自治とは、地方行政を中央政府の干渉を廃してその地方の住民の意思で自主的に処理させること」であり、「団体自治とは、国から独立した法人格を持つ地域団体を設け、この地域団体をして地方行政に当たらせること」とされる(略)。
 つまり「団体自治」も「住民自治」も自治体政府というひとつの概念なのであって、別々に存在しているわけではない。

http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20090821/p1

 「ガバナンス」誌の最新号(09年9月号)では、金井利之先生(東京大学)が、やはり、「住民自治」の同様の使用について、「『自治事務の矮小化』というべき現象である」と懸念を示されています。

 まず第一に、住民の意向に従って自治体行政に仕事をさせるという、自治体に対する民主的統制の発想が「住民自治」から消え去ってる。(中略)行政に任せないで住民が住民だけで事を為すのが「住民自治」であれば、「住民自治」とは民主的な自治体政府の否定である。(後略)
 第二に、存在した共産主義が強度の官僚制国家であったように、現実には行政機構は消滅しない。それどころか、「住民自治」の名の下で行政が仕事を怠慢にし、住民に負担転嫁をするための口実になるのが関の山である。(後略)
 第三に、「自分たちのことを自分たちでする」という「住民自治」は、実は単なる活動者の思い込みとお節介になりやすいということである。(後略)
(83頁)

 後半はかなり手厳しい。
 確かに、オバマ大統領が打ち出した社会保障を否定しようとする、アメリカの一部の保守主義のように、「政府」の介入をことさらに排除しようとする「自治」の発想があることは事実です(まあ、その「調整」こそが政治に期待されている役割なのでしょうが)。とはいえ、上記の「住民自治」の用語の使用が、そこまで踏み込んだものとも思えません。
 これは以前にも書いたことですが、市民に負託された責任を達成すべき地方政府の役割については、これからも引き続き地域と探っていく必要があるでしょう。