自治体法務の備忘録

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沖縄密約認め開示命令 東京地裁判決

 1972年の沖縄返還に絡み、日米両政府が交わした密約文書の開示を求めた訴訟の判決が9日、東京地裁であった。杉原則彦裁判長は密約の存在を認め、「外務省と財務省は不開示決定当時に文書を保有していたと認められる」と判断し、両省に文書の開示と総額250万円の損害賠償を命じた。
http://www.chunichi.co.jp/article/politics/news/CK2010041002000040.html

 判決文はウェブ上に掲載されていないようですが、その要旨は新聞社のニュースサイトに掲載されています。

【沖縄密約開示訴訟:東京地裁判決(要旨)】
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100410ddm012040023000c.html

 その高度に政治的な内容から、不存在の立証責任について興味深い判断がされており、冒頭の報道では以下のように記述されています。

 情報公開請求訴訟では、文書が存在することを立証する責任は、請求者側に課されるのが判例だ。9日の東京地裁判決は、密約文書が少なくとも過去には存在し、保有されていたと推認。文書不開示決定時までに失われたならば、行政側がそれを証明しなければならないとの考え方を示し、原告側の立証責任を軽減した。

 外相は控訴の可能性も否定していないようで、今後の行方も気になりますが、このたび俎上にあがった国家機密は、「取材活動の限界」に関する判断事例として刑法判例百選にも掲載されている有名な刑事裁判に関わりがありものです。

昭和53年05月31日 最高裁判所第一小法廷
一〜四 (略)
五 外務省担当記者であつた被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「五月二八日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
六 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
七 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=51114&hanreiKbn=01

 時事通信社解説委員長でいらっしゃる田崎史郎氏は、このたびの判決について以下のように執筆されています。

 密約が発覚したとき、わたしはマスコミを志望する学生だった。当時、社会党議員だった横路孝弘衆院議長によって国会で暴かれ、そのネタ元となった毎日新聞西山太吉氏が国家公務員法違反に問われた。「知る権利」が「情を通じて」というスキャンダルにすり替わっていくプロセスが脳裏に焼き付き、「知る権利」について調べたのを覚えている。
「地方行政」第101137号 7ページ

 そういえば、上記の判例要旨をニュースサイトに掲載した新聞社は、西山記者が当時所属した毎日新聞でありました。
 政治的判断と情報管理、時代の経過、(行政に過度な負担を強いるとの、このたびの判決に否定的な意見も含めて)いろいろ考えさせられる事例です。