自治体法務の備忘録

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夏の訪問者

 この時期になると、数年前の訪問者を思い出します。
私「はい、条例の件でとお伺いいたしましたが…」
 市政資料の閲覧コーナーの担当に案内されたのは、歳の頃は中学生の少年と、その保護者らしきご婦人でした。
ご婦人「市の独自条例って、何があるのかしら」
私「独自、というか法の委任に基づかない条例はいくつもあります。他の自治体における事例が少ない条例というものもいくつかありますが…」
ご婦人「それを教えて下さらない?」
 では、と事例を挙げて説明を始めたのですが、「ふんふん」と相づちを打たれながらもどうも要領を得ない。失礼ですが、どのような目的で、と問いかけると、
ご婦人「子どもの夏休みの宿題なんです」
とのこと。ははあ。
私「参考までに、資料があれば拝見できないでしょうか」
 資料を手に取ってみると「近くの自治体について調べてみよう」と課題が書かれ、その事例の一つとして、確かに「独自の条例は?」との記述が有りました。
 ほーお、と思いながら、ご婦人から聡明そうな少年の方に顔を向けました。
私「えーと、この内容を見ると『独自の条例』っていうのは事例の一つだね。『条例』に限らず、市の施策っていうのは、特定の目的を達成するためにある、これはわかるよね」
少年「はい」
私「独自の条例をずらずら並べることは簡単だけれど、あまり意味がないんじゃないかな。むしろ、市の課題を何か取り上げて、その解決のためには何が行われているんだろう、条例が定められているとすればその内容と効果は、と構成を考えてごらん」
少年「取り上げる課題って、どうやって考えればいいんでしょう?」
私「君は何が好き?」
少年「スポーツとか」
私「じゃあ、市のホームページ見てもいいし、帰りにスポーツ担当課に寄ってもいい。この市の課題と取り組みを調べてごらん」
少年「はい」
私「こういう宿題はね、存在する『答え』を探すことより、自分自身で『問題』を見つけることが、たぶん要求されているんだよ」
 そこでご婦人に振り返り、「というわけです」と微笑みました。
 勉強には、教えられることを吸収するばかりでなく、自分で切り開く楽しさがあります。一瞬、少年の目が輝いたように見えたのは私の期待によるものでしょうか。そして、「切り開く」楽しさを、彼が自身の人生にも見つけることができれば、とそっと願います。
後輩「ところで、kei-zuさんのお子さんは、夏休みの宿題、もう終わらせました?」
 回想する私に後輩が声をかけました。
私「うーん、ぎりぎりまで手を付けないのは親譲りなのかぁ」
 そして、ため息を一つ。