自治体法務の備忘録

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夢の原子力

夢の原子力―Atoms for Dream (ちくま新書)

夢の原子力―Atoms for Dream (ちくま新書)

 いやあ、誠に興味深い。

 すなわち、冷戦のなかでのアメリカの核戦略は、この国の人々の日常的な感覚からするならば、一方は恐怖であり、他方は夢であった。(略)したがって、原子力がテクノロジーとして軍事的でも産業的でもあるものとして語られる場合、これに対する評価は両義的となる。ところが「アトム・フォー・ピース」は、そのあらゆる表象上の戦略において核の軍事的な側面への言及から分離されるように注意が払われていたため、一般の人々からするならば、「恐怖」を周縁化して「夢」として受容することが可能であった。
(287〜288頁)

 ここで「アトム・フォー・ピース」とは、核の平和利用に関するアイゼンハワーの演説を指します。本書の指摘によれば、同演説は、アポロ11号月着陸以前、あるいはケネディ大統領暗殺以前における未曾有のメディアイベントであったといいます。
 実は、本書で私が一番最初に目を通したのは、全体を大きく4つに構成する章立てのうち「ゴジラの戦後 アトムの未来」と題された第3章でした。*1
 同章では、核の平和利用が喧伝される一方で、フィクションの中で、我が国が原子力をどのようにとらえられて来たかを検証しています。フィクションは、意識的・無意識的に時代性が表れるからです。
 同章に先立っては、電力が表裏に背負う「開発」が先進国でどのように理解され、推進されて来たかが説明され、続いて我が国の戦後の復興の中で、それがどのような意味を持たされてきたかが解説されます。
 原子力の開発において表出された当時の「夢」を、今どのように受け止めるべきかは、現代に生きる私達の課題でありましょう。

*1:私が本を最初から読まないのはいつものことです。