自治体法務の備忘録

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法の種類と執行機関多元主義(講義再現)

 私が千葉大学を卒業したのは1991年3月ですから、30年近くなります。正門前の3階建てのビル、今は1階の美容室がその頃は喫茶店で、そこでアルバイトしてました。懐かしいですね。 

【法令と例規の関係(補足)】

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 先ほど横田先生から、私が船橋市の研修でお話しした内容を引用して、法令と例規の関係についてご説明がありました。
 法律は制度の安定性を担保します。介護保険を例にすると、保険の加入時期は40歳なんですが、いきなり20歳になったら皆さん困るでしょ。
 一方で、法律は機動的に対応がしがたい側面があるんですね。法律の内容の詳細なルールとして介護保険法施行令(政令)や介護保険施行規則(省令)が定められるのは、そんな理由があります。
 介護保険料の額など、地域における個別のルールは、介護保険条例(条例)で定められています。自治体ごとに介護保険料の額って違うんですよ。
 法令・例規の関係は、先ほどの図では上下に記載されていましたが、私たちの周りを見回すと、モザイクやステンドグラスのように組み合わさっているイメージです。

【二元代表制と議員内閣制】
 法律は、国会で制定されます。条例は、自治体の議会。でも、自治体の長は独自に「規則」を定めることができます。政省令が直接法律の根拠を必要とするのと対照的です。
 これは、このあいだ選挙がありましたが、長も議会の議員も選挙によって選ばれていることによります。このような仕組みを「二元代表制」といいます。
 これに対し、総理大臣は選挙で選ばれていません。え? 安部さんって選挙で当選してるよって? うん、国会議員として当選しているんです。内閣総理大臣は、国会議員から選出される。このような仕組みを「議員内閣制」といいます。

教育委員会と執行機関多元主義
 皆さんは図書館って使われます? 大学図書館じゃなくて、お住いの近くにある、あるいは高校時代にご自宅の近くにあった公立図書館です。
 そんな公立図書館ですが、市役所や町役場では、社会教育法という法律に基づいて教育委員会によって管理されています。
 教育委員会ってなんでしょう? 市の教育行政に携わる機関です。
 私の子どもが小学校に入学するとき、学区に基づいて小学校の指定がありました。ハガキが届いたんですけど、差出人は「教育委員会」で、「市長」じゃないんです。
 逆にいうと、市長は教育行政に関する権限がないんですね。

 ちょっと説明すると、市役所のすべての仕事について市長に権限があるわけではありません。こないだ選挙があったでしょ。選挙事務の権限は、選挙管理委員会という組織にあります。
 選挙事務の権限が市長にあったら「俺、もう一回当選しよ」と不正を働くかもしれない。そういう疑いが発生しない仕組みになっているわけです。

 同様に、学校教育や社会教育、文化行政を担う教育委員会は、教育の中立性、継続性、安定性を確保するために、市長から独立した仕組みがとられています。
「委員会」という名称からわかるように、複数の人数で構成されています。教育委員会だと、一般的には5人で構成されています。
 5人の会議の上で、こうしよう!という意思決定をするのですね。会社の取締役会に近いイメージです。
 知事や市長だとお一人ですから、急ぎの案件ですと、「失礼します!」と執務室に入って「いかがでしょうか?」と判断を仰ぐことができますが、5人の会議ですとそうはいきません。
 私の市では、毎週第3水曜日に定例教育委員会会議が開催され、月ごとに教育行政の運営判断が行われています。

 このような機関は、市役所ですと、ほかに農業委員会・人事委員会・監査委員などがあります。いずれも独立性が期待される仕事に携わっています。

 監査委員は、会計管理や事務執行についてチェックをするのが仕事ですから、市長の権限外にあった方が公正なチェックができるのはわかりますよね。
 このような仕組みを「執行機関多元主義」といいます。私は、研修などでこの仕組みを説明するときには、アタマがいっぱいある「ヤマタノオロチ」みたいでしょ、と例えています。
 市長は選挙で選ばれているのに、なぜこんな仕組みになっているのでしょうか? 権力は一か所に集中しない方が良い、というのが人類の経験則で、そのための法制度上の工夫なんですね。
 もっとも、アタマがいっぱいあると、どっちに進むか困ることがある。そのため、市長には「総合調整権」というものがあります。

 市長村長や知事のことを「首長」といいますが、首が他より長いからだよ、といつも冗談を交えて説明しています。

【図書館の役割と法律改正】
 図書館に話を戻すと、今、大きな見直しが行われようとしているんですね。
 自治体が条例で定めれば、図書館の所管を教育委員会から首長部局に移すことができるという法律が国会で審議されています。国の資料では、移管によって、長が所管する観光振興やまちづくり分野との一体的な所管ができるということです。
 確かに、現行制度でも、駅前の再開発などで、幅広い集客を見込んで、その中心施設の役割を図書館に期待されることがあります。
 集客施設としての図書館で全国の注目を浴びたのが、九州の武雄市でした。ツタヤが管理運営していて、スターバックスが併設される図書館は、実際、多くの市民の利用があるようです。

 ちくま新書の「つながる図書館 コミュニティの核をめざす試み」という非常に良い本があります。

 その中で、武雄市図書館は否定はされていませんが、「武雄市民が求めていたのは、図書館ではなくてスタバだったのではないか」とちょっと厳しい指摘があります。 

図書館戦争

図書館戦争

 ちょっと前に「図書館戦争」という映画がありました。ベストセラーの映画化です。その中で「図書館は民主主義の砦だ」という記述があったと記憶しています。「民主主義の砦」という言葉は、社会教育施設という役割に基づくものです。
 このたびの法律の改正に対しては、社会教育施設という役割が適正に果たされるか注視が必要だ、という指摘があることには注意が必要です。

【教わる、疑問を持つ、勉強する】

 ここでまた質問しましょう。皆さんが欲しい図書館は、教育施設ですか? それとも居心地のよいスタバですか? 社会教育施設としての図書館の役割を変えないためには、どのような工夫が必要でしょうか?

 どうです。何かモヤモヤするでしょう。
 また、今日の議論をひっくり返して、図書の代わりにネットワークなどの情報を集積する施設を設ければ、それは社会教育施設とどう違うのでしょうか?
 ツタヤが図書館を運営するなら、アマゾンが図書館を運営する可能性はないのか? 実現したら、どのようなものになるでしょうか?
 そのような疑問が生じたら、講義の合間、ノートに「自分への突っ込み用」のメモを書いてみてください。そのような疑問は、勉強のきっかけになります。
 今日はありがとうございました。