自治体法務の備忘録

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悲しんでいい―大災害とグリーフケア

悲しんでいい 大災害とグリーフケア (NHK出版新書)

悲しんでいい 大災害とグリーフケア (NHK出版新書)

 「グリーフケア」とは耳慣れない言葉ですが、本書で著者は以下のように説明しています。

 「眠れない」症状にたいして睡眠剤を与える。「気力の出ない」症状にたいして精神安定剤抗うつ剤を与える。「行方不明の息子さんを案じる心」や、「愛する妻を失った悲しみ」に寄り添うことなく、たんに体の不調を薬で治そうとするわけです。それでは人の心は癒されません。
 「心のケア」とは、まさしく「グリーフ(悲嘆)ケア」のことなのです。傷口に黙って薬をぬって治すような感覚では、人間の心のケアはできません。
(35〜36頁)

 著者はまた、「グリーフケア」が「カウンセリング」と混同されることに懸念を示し、ときには相手を傷つけかねない姿勢で悲嘆者に接する危険性について記述されています。
 著者ご自身も被災された阪神・淡路大震災で、実際に「傾聴ボランティア」が起こしたトラブルの事例を読むと、人間関係の難しさを感じざるを得ません。それでも著者は、人間が支えないながら生きることの重要性を訴えます。

 人には思い切り悲しむ時間も必要と書きましたが、悲しみを一人で抱え込んでいるだけでは、悲嘆は癒されません。悲嘆の感情は、表に出すことによって、すこしずつ回復へと向かうのです。悲しいときには”悲しんでいい”のです。
(59頁)

 同じ著者の、

悲しみの乗り越え方 (角川oneテーマ21)

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は、出版時期も近く、重複する部分はありますが、身近な人を亡くす悲しみについて記述されたその内容には、電車の中で読みながら、冗談でも何でもなく何度か涙が出そうになりました。
 著者はカトリックのシスターでいらっしゃいますが、その視点の暖かさは宗教性よりも人と紡ぎ上げていく信頼への期待にあるように思えます。
 日頃元気なつもりでもふと過去の悲しみにとらわれることがある方は、本書を手に、心の井戸をゆっくりと覗いてみるのはいかがでしょうか。