自治体法務の備忘録

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キリスト教の真実−西洋近代をもたらした宗教思想

 いやあ、おもしろい。
 キリスト教自体に関する解説書ではありません。副題にあるように、西洋近代思想におけるキリスト教の影響についてわかりやすく解説されています。
 法律で大陸法英米法の対比はよくされるところですが、本書では歴史的背景をもとに、フランスとアメリカの両国におけるキリスト教への関わり方に紙幅が多く割かれています。
 フランスのアンリ4世がカトリックプロテスタントの緊張関係の中で「信仰の自由」を保証する「ナントの勅令」を発したことについては以下のように記述があります。

その時にアンリ4世がすべての国民のアイデンティティとして強調したのが、「市民」という概念だった。
彼は、カトリックユグノーユダヤ人も、教会から破門された無神論者すら「市民」というカテゴリーに含み込んだ。
都市ではこうした市民たちが、多数決によって都市生活を運営するなど、個人の信仰に優先する市民の権利義務を認める共存という習慣を形成していくのである。
(124頁)

 このあたり、私達が口に出しやすい「市民」の起源が見えて興味深い。

教会が「言っていること」、「目指していること」と、現実の無力や妥協の間にある欺瞞とが誰の目にも可視化されていたからこそ、ヨーロッパの理性は宗教改革や反教権主義や無神論を経て、宗教の言葉を使わない基本的人権の普遍理念へと収束していくことになるのである。
(263頁)

 「日本の民主主義は『押しつけ』だから、主体的なものになっていない」とはよく批評されるところですが、上記の記述によればその根は思いのほか深そうです。
 しかしながら、著者は、ジャスミン革命をはじめとする非キリスト教国の民主化の例を挙げて、今後の可能性に期待しています。そこに我が国に関する記述はありませんが、自治において民主主義をどのように達成すべきかは、現場の職員として気にかかるところではあります。