日本沈没
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2017/07/26
- メディア: Kindle版
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そういえば、出版当時ベストセラーとなった本書のカッパノベルス版が亡き父の本棚に並んでいましたっけ。今の自分といくつも変わらない当時の父は戦争体験もあったわけで、感慨深く思います。
ご子息による解説も読みごたえがあり、戦中戦後の悲惨な記憶が小松左京に本書という形で日本人へのメッセージを書かせたことがわかります。
そのほか、ずいぶんいろいろな事が起こった。私の戦後初めて片想いの恋をした同学年の女学生は、4年生のとき浮浪者に強姦殺人の目にあった。私の小学校時代の同学年の女の子は私がまだ中学にいるころにパン助(kei-zu注:売春婦のこと)になってしまっていた。
こんなことはいくら書いてもしかたがあるまい。あんな悪夢のような時代は、とても説明しきれないだろうし、もう2度とこないだろう。心から――本当に心から、あんな時代が2度とこないことを、5つ6つの子供が、悪魔か野獣のようになってしまい、君たちのういういしいガールフレンドが、死ぬよりもおそろしい目にあうような時代が、2度とこないことを祈りたい。
上記は、解説に引用された「やぶれかぶれ青春期」の一節です。
解説によれば、ご本人による第2部が執筆に至らなかった理由は「あまりに多くの日本人を脱出させてしまった」からとのこと。物語を成立させるためには、その数を半分に減らさなければ成立しない。だが、それを書くのは辛すぎる。
阪神淡路大震災は、戦争の闇を著者に引き寄せるものであったと解説は書きます。同震災以降、物語を生み出すことがなかったとも。そして、東日本大震災。著者は、心身ともに急速に衰え、ずっとふさぎ込むようになったといいます。
40年前の本作は、科学的な理屈付けは古くなっているとはいいます。社会的な風俗描写や外交描写も、右肩上がりの高度成長が背景に窺えます。
それでも、本作が持つメッセージの重要性にかわりはありません。夏の合間、余裕のある方は、手に取られることを検討されてもよいのではないでしょうか。