自治体法務の備忘録

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ベンチマークという手法

 条例制定のためのベンチマークという手法は、田中先生のご著書である

に詳解されています。

 条例のベンチマークとは、「他の自治体の最も優れた条例などのシステムを、自己の自治体の現状と継続的に比較分析して、自己の条例の制度設計・運用に活かすことをいう。(14ページ)
 定義中の「最も優れた」とは、自己の自治体の立法ニーズにより良く適合したという意味である。ここで「立法ニーズ」とは、そのときどきにおける自治体の政策課題(行政ニーズ)のうち、条例等の立法によって対応すべきものということができる。よって、具体的に直面する立法ニーズの的確な把握が、必要になる。(15ページ)
 条例のベンチマークでは、「条文」という外面だけの比較(実務ではかなり多い)ではなく、その運用も含めた制度・システム全体(条例制定過程を含む)を対象に参照・比較する。文言は美しくても中味が伴わなければ、そのような条例をまねても自分の自治体に根付く(立法ニーズに適合し住民の福祉増進につながる)ものにはならない。(15ページ)

【用例】
「あー、○○市の条例、あれをパクったわけね」
「パクリじゃありません!『ベンチマーク』です!!」
 田中先生ごめんなさいごめんなさい
 冗談はさておき、条例の制定の際は(特に新規の場合には)、先行事例を探すことは実務において一般的に行われていることと思います。(私自身も事例によっては20〜30をもネットから印刷の上、規定内容の条文ごとにマーカで色分けし、附箋を立てまくって、文言を編みます。)
 この点、nationfreeさんは「欲しいのは、秀逸なモデル」とご指摘されるわけですが(先日、うちの職場でも、「このような規定ぶりをしている自治体はいくつあります」と報告された上司が「数じゃないんだよ!質なんだよ!どこの自治体?!」と指摘していました。)、同氏がご掲載された記事における「コツ」が参考になります。

ネットで先進地の例を検索すると、いっぱい引っかかるのですが、当然、全部に目を通してはいる時間はありません。私がほしいのは、もちろん、秀逸な制定例(モデル)です。
元上司の言葉を思い出します。
>第1条の目的規定を読めば、中身を全部見なくても、だいたいわかるだろ?
第1条がしっかりしている例規は、やっぱり中身もきちんとしている。何をやりたいのかはっきりしているからさ。第1条が、なんだかさっぱり訳のわからない例規は、間違いなく本文もどうしょうもない。おまえ、この仕事、何年やってるんだ?!
そうでした。
これにプラス制定年月日が直近で、先進地の事例を研究しつくしたような奴がよろしいかと。
http://d.hatena.ne.jp/nationfree/20060809#p1

 自治体の例規というのは、おもしろいことに、あんまり大きな声では言えませんが、政令市や中核市など大きな自治体だから優れた内容だとは一概に言い切れません。無論、横浜市のように日本一大きな基礎的自治体は大いに参考にさせて頂いているところですが、現在の人口よりは、むしろ、「自治体としての蓄積・経験値」のあるところの方がいろいろを参考になるなと思うところです。(例えば、合併前から新潟市は非常に参考にさせて頂いています。)
 いずれにせよ、拙書評に関連して「政策法務」について六角潤さんが寄せられたお言葉(http://propos.s27.xrea.com/20060925.html)のとおり「『当たり前じゃないか』と思われる内容でも暗黙知形式知に転換することに大きな意味がある」ものです。法制執務ご担当の方は本書のご一読を。