自治体法務の備忘録

管理人のTwitterは、@keizu4080

自治体職員のための政策法務入門

 以前にもご紹介しました(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20081104/p1)、

夫婦別姓の婚姻届が出されたら (自治体職員のための政策法務入門 2 市民課の巻)
作者: 松村享
出版社/メーカー: 第一法規株式会社
発売日: 2008/10/01
メディア: 単行本
http://www.daiichihoki.co.jp/dh/product/113712.html

保育所民営化が住民の大反対にあったとき (自治体職員のための政策法務入門 3 福祉課の巻)
作者: 杉山富昭
出版社/メーカー: 第一法規株式会社
発売日: 2008/10/31
メディア: 単行本
http://www.daiichihoki.co.jp/dh/product/113720.html

が手元に届きましたので、夢中になって読んでしまいました。
 第2巻の「市民課の巻」、第3巻の「福祉課の巻」には、それぞれ、ご覧のとおりのショッキングな副題が付いていますが、その内容は、自治体が直面し、「法の運用」でその打開が期待される様々な事例の紹介です。架空の自治体を舞台にした物語形式で進行しますので、読みやすいばかりでなく、その展開に手に汗握ります。
 目次からいくつかご紹介しましょうか。

【市民課の巻】

  • ニセの転居届 ―行政罰と過料
  • その名前、待った! ―命名をめぐる基準
  • 国の言うとおりやったのに・・・ ―法定受託事務の意味
  • 地面師あらわる ―印鑑登録の落とし穴
  • 売られた個人情報 ―業務委託における責任の所在 etc.

【福祉課の巻】

  • 敬老祝い金をめぐる怪 ―公金の支出と行政処分
  • すぐそこにある可能性 ―高齢者虐待
  • ことばの裏を読めますか ―接遇、相談の技法
  • その誠意、量れます? ―保育所での事故対応
  • 「払えない」でなく「払わない」 ― 保育料の滞納と臨時的職員
  • セーフティーネットのトリック!? ―生活保護の実態 etc.

 どうです、おもしろそうでしょ。もちろん、それぞれの副題になったエピソードも掲載されています。
 自治体現場で直面する課題、ということで、当然のことながら、それぞれ舞台となる部署を巡る物語の展開が中心となりますが、その内容は個別法に基づく対処にとどまりません。
 上記に引用させていただいた「市民課の巻」の目次でも「行政罰と過料」が掲げられており、本書の特徴は、日常業務における「法への意識付けとその運用」について、大事な「気づき」を与えてくれるものだと思います。
 「福祉課の巻」では、生活保護のような法定受託事務から要綱に基づく給付行政まで、福祉の幅広い分野を取りまとめた著者のご手腕は見事で、特に交渉の局面で発揮されるべき「対話」に関する記述は、

交渉する自治体職員―自治体現場の政策法務 (政策法学ライブラリイ)

交渉する自治体職員―自治体現場の政策法務 (政策法学ライブラリイ)

を書かれた杉山富昭氏の真骨頂でしょう。
 読後、改めて思うのは、政策法務は「現場力」だなあ、いうこと。
 「政策法務」について語られるとき、政策的な条例制定が議論に上りやすいかとは思いますが、私自身は、「政策法務」は現場においてこそ発揮されるものだと考えています。翻って、「政策法務」を条例論にとどめることは、その可能性を貶めかねるものではないか、とも思うところ。
 なお、自治体の法務担当としては、それぞれの書籍の中での法務担当職員の活躍ぶりに、いささかならず我が身を振り返えらざるを得ません。未熟な法務担当職員による論点のずれたアドバイスが、現課と市民を混乱に陥れる「福祉課の巻」のエピソード(「勝手にあなたのもの!? ―施設と公道」)は、読んでいて冷や汗をかきました。
 続刊も予定されているようで、「1 総務課の巻」「4 まちづくり課の巻」「5 環境課の巻」のラインナップが誠に楽しみ。
 取り上げられた部署にご所属の方々以外にも、多くの自治体職員に読んできたいただきたいと思います。というか、読んで、お願い。