「マンガでわかる! 自治体予算のリアル」
本書の執筆者は、本文とマンガともに現役の自治体職員であり、庁内の緊張関係はご存じで、誇張されてはいるもののマンガ部分の記述には「あー、わかる」と登場人物に親近感を持たれるかと思います。
「マンガでわかる!」という構成は、実は難しくて、下手をするとマンガの中の吹き出しにびっしりと説明セリフが並ぶものになりかねません。
一方で、文章による解説の導入としてマンガが置かれる本書のような形式もありますが、本書の興味深いところは、マンガ部分と本文の「噛み合い」にあります。
マンガの中で、市長の公約である「子ども医療費の助成」への財源ねん出についてドラマチックな展開がある一方、本文では、想定しうるその効果に比して「際限のない自治体間競争が始まっている」と提示する多面的な視点に、視界を広げられる思いがします。
本書のクライマックス、市の一大イベントである花火大会では、それまでのドラマで緊張関係も生じた登場人物たちが、夜空に広がる大輪の花火を見上げます。
「市民の笑顔が間近だ。人の笑顔が仕事の喜びになるっていうのは、原点だな」
正直、ちょっとウルっと来ましたよ。
最後に、来年度予算の編成に向けたこの時期、本文の執筆者である定野司さんの文章を引用しましょう。
「要求なきところに査定なし」とは、「事業課の熱意が感じられないようでは、とても予算はつけられませんよ」という財政課の気持ちを表現したものです。それは同時に、「予算をつけると査定したからには、事業課にかわって財政課が、唯一の予算編成権者である首長に掛け合いますよ」という決意の表れでもあるのです。
(156頁)
さあ、年度も佳境に入ります。
「Q&Aでわかる業種別法務 自治体」
中央経済社からの新刊。弁護士向けの業種別解説シリーズです。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 中央経済社
- 発売日: 2019/11/09
- メディア: 単行本
1冊にまとめる編者のご苦労はあったと思うのですが、1章〜3章「自治体の組織と職員」「自治体の事務一般に関わる事項」「個別の分野における法務」にまとめられた内容は、読者の理解の端緒となる事例が厳選されています。
4章「自治体の争訟」では、法律に定める自治体の「特別なルール」が端的に説明されていますし(審査請求についての説明を含む)、5章「災害と自治体」の内容は、大規模な災害が少なくない近年において心強いことと思います。
法制執務についても触れられていますが、限られた紙幅で細かい「お約束事」を網羅することはもとより不可能。ここでは、事例を端的に紹介しています。
うまいなあと思ったのは、「又は」「若しくは」・「その他」「その他の」の使い分けや、技術的な改め文の構造について、この度の改正民法が題材とされている構成です。これなら弁護士である読者の皆さん、頭に入りやすいでしょうね。
コラムで公務員の勤務関係について触れられるなど、「ここ知っといて」のポイントも抑えられています。
民間労働者の雇用関係は契約(労働契約)に基づくものですが、自治体職員の勤務関係については、行政行為(公法上の行為)であると考えられています。(中略)そのため、自治体職員の勤務関係に関する相談を受けた場合は、地公法や各自治体の条例等を確認・検討した上で回答する必要があります。
(34ページ)
お値段はちょっと張りますが、自治体の法規担当の本棚に置いても参考になる内容であると思います。
なお、「条例の制定過程」の説明では、拙著『自治体の法規担当になったら読む本』を参考文献として挙げていただいております(123頁)。感謝<(_ _)>深く深く
140字で唸らせる「超文章塾」
10月31日開催の「140字で唸らせる「超文章塾」」を聴講しました。
講師のお二人の著作は、こちらです。
「法律だの財政だの、ややこしいこと」をわかりやすく説明する本を出している身としては、気になるじゃありませんか。
上記の「書くための勇気」は、読み進む中で気になったページを折っていったら、こんなになってしまった。私がこんなに読み込んでしまうのは、久しぶりのことです。
失敗したのは、直前の慌ただしさに事前課題を提出できなかったこと。そう、このセミナーでは、「最近読んだ「面白かった本・マンガ・雑誌」についての140字レビュー」を募集し、これに講師のお二人がコメントを加えるというのがメインイベントなのです。
三「紹介とレビューは、違う」
川「これからは、一万人の平均値より、個人の経験値が評価される方向に回帰するのでは」
三「ここいらないよな、という言葉はガンガン削る」「「ムダを削る」と「あえて加える」を意識的に使い分ける」
いやあ、勉強になるなあ。
「ご批評のそれ、私が書いたんですが、わかりにくいですか」と場内から質問があり、そうか、書いた人間が会場にいるんだよね。そんな恐ろしい環境で、私は他人の文章にコメントはできないなあ(汗
お二人の執筆は他にお仕事をされながらとのことで、気持ちの切り替えやモチベーションの維持についてのご発言も、やはり仕事の合間に執筆を進めるわが身にとって、とても参考になるものでした。
川「会社から帰宅後、毎日2時間は集中して執筆」「疲れていても、手は動く」
うーむ、道は険しい。
終了後は、それぞれのご著書にサインをいただきました。わーい。
「地方自治体の財務の仕組み」@東京弁護士会館
本日は、東京弁護士会館で「地方自治体の財務の仕組み」と題して、2時間お話しをさせていただきました。
自治体における予算の位置付け、編成過程、地方交付税と地方財政計画、債権回収に関する課題など、駆け足ながらのご説明
途中の質疑応答も盛んで、講師も楽しませていただきました(・∀・)
昨年、一昨年の講師が地方議会運営の第一人者でいらっしゃる野村憲一さん
- 作者: 野村憲一
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 2016/09/17
- メディア: 単行本
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元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術[改訂第3版]
- 作者: 吉田利宏
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/05/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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幸い、終了後の懇親会では、好意的なご意見いただけて何よりでありました。
法規担当に赴任された方へ(法律相談への対応をどう学ぶか)
9月に入りました。
この4月に法規担当に赴任された方は、半年を迎えようとされているわけですが、赴任時から戸惑いも少なくなかったのではないかと思うところ。
職員の人数が限られる自治体の法規担当は、例規改正だけではなくいろいろお仕事をされる例が多いでしょうが、何より戸惑われたのが法律相談ではないでしょうか。
最近は法科大学院を卒業され、法的な考え方の基礎を持たれている方も少なくないでしょうが、自治体法務の特殊なルールに戸惑われる場面もあるでしょう。
ある程度は経験と知識を蓄積する必要があるのですが、そろそろ頭の整理をしても良い頃です。
法律相談については、「Q&A 実務解説 法制執務(加除式書籍)」(ぎょうせい)の目次を眺め、気になる内容から読まれてみてはいかがでしょうか。「要綱と要領の違い」「コピー料金の設定方法」「官報で正誤が出た場合の対処」などなど、照会に接した事案があるのではないでしょうか。
類書としては、「Q&A 実務 地方自治法(加除式書籍)」(ぎょうせい)があります。こちらは、「Q&A 実務解説 法制執務」に見られる「素朴な疑問」より、ちょっと記述が詳しい。
なお、加除式書籍は、内容を最新のものにするべくページが加除されます(当たり前だ)。再読の際に、どの部分が加えられたページかわかりにくいのですが、ページの背表紙近くに、加除のバージョン(「実務法制・21・2」など)が掲載されていることがあります。
逆に言えば、最新の数字が掲載されたページを定期的に読めば、最新の情報が確認できることになります。私は、赴任したばかりの頃、「パトロール」と内心称して加除式書籍の最新部分をチェックしておりました。
もちろん、これらの本に掲載される情報がすべて「適切な法解釈」であるという保証はありません。しかしながら、先輩からの口伝や他自治体の事例を検討する際の重要な補助線になろうかと思います。
何より大事なのは、「自分で考えること」なのです。
北海道町村会法務支援室「知的財産権の諸問題」
北海道町村会法務支援室のサイトに掲載の研修資料
こちらも端的にまとまっています。