財務省
- 作者: 榊原英資
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/06/01
- メディア: 単行本
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とはいえ、「ぶったぎりの保さん」と呼ばれた保田博氏が、主計官時代に各省の予算を厳しく査定し、東京湾横断道路や関西国際空港などの大型プロジェクトに軒並み「ゼロ査定」をしたという逸話には、財務官僚の迫力がうかがい知れます(130頁)。*1
また、時折覗かせる辛口の人物評も興味深いところで、「ぶったぎりの保さん」というニックネームが、激しく査定する割に慕われていたことを示すものだと紹介した上で、「同じように激しい査定をすることで有名だった女性主計官は、あまり好かれていなかったようです」と手厳しい(あの方かしら)。
「どこかで相手を救ってあげるという判断は必要ないと考えたのでしょうが、それが『厳しいというより冷たい』と評されていたのを記憶しています」という指摘は、自治体でささやかな査定を行う我が身にも参考になるものです。
また「次官の器とは」との質問に対し、大蔵OBが答えたという、
ひとつは、あいつがそこまで言っているんじゃしょうがない、と相手を納得させる器量、次に、相手を最後まで追い込まない、ハンドルの遊びを持つ人柄、そして、あいつなら危急存亡の時でも安心して組織の舵取りを任せられるという安定感
という内容には、組織人として頷かされるものがあります(115頁)。
戦後の復興期においては、次官から政治家に転出する人材も多かったものが、社会の成熟に連れて政治家も世襲が少なくなくなり、政治家と官僚の一体化が失われる一方で、大蔵省が中央省庁において存在感を示すことになってきた、という記述は、ちょっと他では見なかったものです。内部からの視点によるものであるからでしょうか。
*1:著者は「後にこのプロジェクトは実現してしまいましたが、いま振り返ると、保田は凄い見識の持ち主だったと思います」と記述しています。