自治体法務の備忘録

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移行期における使用料と利用料金の取扱いについて

 既に多くの自治体でご検討済みの事項かと思いますし、何を今更なのですが、メモしておきます。私も直前になって気が付いて随分あたふたとしましたので、ご参考までに(^^;
【1.首長の許可を指定管理者のものとする「みなし規定」】
 施設の使用許可に係る申請は当該使用の数ヶ月前から受け付けられる旨が、多くの施設について規定されています。
 4月から指定管理者制度に移行する施設で、移行前において4月以降の施設使用の申請を受け付け、首長がこれを許可する場合において、施設の管理上の問題から4月以降に当該許可を取り消すに当たって、講学上の「撤回」に当たることから、処分庁たる立場においてしかこれを行うことができないため、首長が行った処分を指定管理者に行ったものとして取り扱うことが必要になります。

船橋市総合体育館条例】
(経過措置)
3 この条例の施行前に改正前の船橋市総合体育館条例の規定によりなされた処分、手続その他の行為は、改正後の船橋市総合体育館条例の規定によりなされた処分、手続その他の行為とみなす
http://www.city.funabashi.chiba.jp/gyosei/reiki_int/reiki_honbun/g0050673001.html#top

 この場合の問題は、前年度中に申請を不許可処分とした場合で、新年度に行政救済を求めようとすると取扱いがやっかいになることです。
 具体的に言えば、前年度中の不服申立ての相手先が「首長への異議申立て」であるのに対し、新年度になってしまったら「首長への審査請求」になってしまいます。もっとやっかいなのが被告適格で、前年度中であれば首長であるのに対し、新年度では指定管理者になります。つまり、指定管理者にとってみれば、他人が行った処分について訴えられることになります。*1
【2.使用料として徴収した料金の取扱い】
 上記の取扱いに当たり、新年度以降、従来の「使用料」に代えて「利用料金」を徴収しようとすると、ロジックがちょっとやっかいです。既に行った処分行為については「みなし規定」で処分庁をスライド(首長→指定管理者)するにしても、既に市の歳入として取り扱われた「使用料」を「利用料金」としてスライドするわけにはいきません。
 前年度の徴収済使用料と新年度の利用料金の関係について、厳にその取扱いを区分するために、自治体によっては、条例の附則において以下のように定めている例があります。

浦安市市民保養所蓼科山荘の設置及び管理に関する条例】
(経過措置)
2 改正後の浦安市市民保養所蓼科山荘の設置及び管理に関する条例第9条、第12条及び第13条の規定は、施行日以後の利用の承認に係る利用料金について適用し、施行日前の使用の承認に係る使用料については、なお従前の例による。
※直リンク不可。例規集のトップはhttp://sv2.city.urayasu.chiba.jp/reiki/reiki.html

 ここで「改正後の(略)条例第9条、第12条及び第13条の規定」とは、利用料金に関する規定です。使用料について「従前の例による」とされているのは、4月以降においても3月までの使用の承認に係る使用料の「納付の義務」「減額又は免除」「還付」の根拠を残す意図であるわけですね。
 ところで、利用料金については、条例に定める範囲内で指定管理者が定めることが可能ですので、指定管理者制度に移行後は使用料として徴収されていた額よりも低廉なものになる可能性があることはご存じのとおりですが、本事例のように指定管理者制度移行前は使用料を徴収することを前提とすると、前年度と新年度の許可のタイミングによっては金額が異なってしまう可能性があります。これを不公平とみるかやむを得ないものとして見逃してしまうかは政策によるものでしょうが、上記の条例を定めた自治体では以下のように公募の段階で取扱いを明記しています。おそらく協定で明文化されている事項なのでしょう。

【利用料金の設定にあたって】
 ただし、現行の条例では、平成18年3月31日までは、本市が利用予約を受付し、使用料は市の歳入として処理することとなります。
 現行の条例及び規則上、利用の予約申請は利用日の3カ月前から5日前までと定義され、使用料の納入をもって使用承認とするとあることから、平成18年4月1日から6月30日までの利用者は、平成17年度中に本市が予約を受付し、使用料として市の歳入で処理を行った利用者と、4月1日以降に、指定管理者側が利用予約を受付した利用者の2パターンが混在するものとなります。
 この場合、利用料金制により指定管理者が設定した新たな料金での利用料と、予め使用料として、市が徴収した使用料との格差が生じてしまうことになり、市民の平等な利用という目的が果たせなくなることから、平成18年4月1日から6月30日までの期間は、(下記表2)(料金表)の金額を利用料金として採用してください。
http://www.city.urayasu.chiba.jp/a700/p014/d01400001.html

【3.利用料金相当額の「保証」】
 上記のように

  • 旧年度3月までの納入は「使用料」として自治体の歳入
  • 新年度4月からの納入は「利用料金」として指定管理者の歳入

として取り扱ってしまうと、4月以降の管理についてそれに見合う収入が指定管理者に担保されるのかが問題になります。対応については、自治体の政策であると考えますので、

  • 当該事前申請分の金銭的補償はない旨を公募の段階で指定管理者に明らかにする。

のも一手段かと思いますが、事前申請期間が半年に及ぶようなものであるとその影響は無視できない。対処方法としては、

  • 当該事前申請分に当たる補償を委託料とあわせて措置する。

という方法が想定できるでしょう。この場合においても、

  • 前年度実績から見込額を想定し、これをもって対処する。
  • 旧年度中に納入のあった事前申請分を3月末に集計し、相当額をもって対処する。

などが考えられます。また、後者の場合は、4月以降に自治体において納入済みの使用料の還付が発生した場合は、当該還付金額の相当額を指定管理者から返して頂く仕組み作りも必要でしょう。どちらにしても事前に財政担当と綿密に打ち合わせを行っておく必要があると思います。
【4.指定管理者による「準備行為」】
 上記のように、旧年度と新年度で処分庁や使用に係る料金の取扱いの経過措置を組み立てるのは結構骨が折れますので、附則で「事前準備」として旧年度中から指定管理者に行わせてしまう事例も見られます。

藤沢市自転車等駐車場条例】
2 改正後の第7条第1項の規定による有料自転車等駐車場の利用の承認及び改正後の第9条第1項の規定による利用料金の徴収に関する手続は,この条例の公布の日後最初に改正後の第19条の規定により指定管理者となつた団体(次項において「最初の指定管理者」という。)に限り,この条例の施行の日前においても行わせることができる。
3 前項の規定により徴収した利用料金は,この条例の施行の日に,改正後の第9条第3項の規定による最初の指定管理者の収入となるものとする。
http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/gyousei/reiki/reiki_honbun/g2070439001.html

 一番簡単な方法のように思えますが、事前申請の受付の開始が半年前などの指定以前の場合は対応できません。
 また、従来であれば年度内に市の歳入となったものが納入されなくなってしまうわけですから、金額が大きな場合は見かけ上財政に大きな影響を与えることが懸念されます。
【5.事実行為としての「予約」】
 指定以前の旧年度中の取扱いは「処分を行わない事実行為として『予約』」として対応し、指定後の新年度において改めて「指定管理者が使用許可の処分を行う」という実務的な取扱いも否定すべきものではないとは考えます。ただし、この場合は、当該「予約」について行政救済のレールに載せることができない不安定性があることは否定できません。
【6.次回の指定時の取扱いも念頭に】
 いずれにせよ厄介なのは、この度の「首長→指定管理者」だけではなく、指定期間終了時の「<旧>指定管理者→<新>指定管理者」のタイミングでも想定されることですので検討が必要です。

*1:実務上、不許可処分に係る行政救済の事例はあまりないので、協定時に十分に打ち合わせをしておくというのが現実的な対処になるのでしょうか。