自治体法務の備忘録

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「政策法務課」という名称

 京都府では4月の組織改正で「政策法務課」を新設するそうです。(http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007031000013&genre=A2&area=K00
 「政策法務」をセクションの名称とすることについては、磯崎初仁教授(中央大学)は「(まずは看板を掲げて、政策法務を推進していくんだという宣言をして、それにふさわしい取り組みを促していくという点で)こういうやり方もあっていい」とご発言されていらっしゃいますが*1、その特性が「動機」「行動」である「政策法務*2は、本来、一つの組織で担えうるものではありません。
 この点、田口一博氏の以下のご指摘には、まったく賛同するところです。

 あるセクションが置かれれば、組織の中では、その問題はそのセクションが担当すべきと認識されることでしょう。政策法務も同様で、もし、自治体行政機構に政策法務課というようなものが置かれれば、他の部課からは政策法務政策法務課の仕事だと感じられることでしょう。しかし、政策法務の場合、それでは困るわけです。
「一番やさしい自治政策法務の本」(学陽書房)154頁

 氏は上記に続けて「政策法務の担当課や係が置かれる場合は、そのセクションだけで政策法務を担当するという誤解を受けないようにする必要がある」とご指摘されています。上記の千葉県政策法務課が発行する「政策法務ニュースレター」は、こうした試みの一つとして評価されるべきでしょう。
 とはいえ、上記のとおり「政策法務」は、従来の法制部門が所管していた「法制執務」と比してその性格の違いから概念の次元が異なるものです。確かに、「政策」の運営を「法務」という立場から支援するに当たって、充分な「法制執務」の実施が必要でありますが。逆に言えば、「政策法務」の実施に際し、「法制執務」担当としては「戦略法務(解釈上の冒険をする。違法の可能性あり。)」と「企画法務(解釈上の冒険をしない。違法の可能性なし。)」の限界の指摘に止まるべきなのではないか、という指摘もできます。(このことについて、私が以前に記載した記事はこちら→http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050307/p1*3
 サッカーで言えば、自治体において、政策運営が積極的に点を取りに行くストライカーであるのに対し、法制は本来的にはやはり1点も取らせないゴールキーパーであって、そのゴールキーパーが積極的にボールを蹴りに行っては、やはり危険な気がします。(このことについて、私が以前に記載した記事はこちら→http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20050408/p3*4)もう10年も前のこと、アメリカでエンロンという巨大企業が虚飾会計で破綻しましたが、同社の躍進は、まさしく「創造的会計」と呼ばれた恣意的な会計操作であったことも思い起こせます。
 もちろん、地方分権が推進されている現在において、自治体法務の運営に際しては、旧来的な「法制執務」型に止まるべきであろう筈が無く、積極的な「政策法務」型を模索していくべきであることは言うまでもありません。つまりは、その「政策法務」の運営に当たっては、一セクションが担うべきではなく、各担当課が「政策」として突破するべきではないでしょうか。その意味で、「政策法務課」が単なる看板の付け替えなら、意味が無いどころか、かえって自治体法務の運営に支障が生じかねないのではないかと密かに危惧するところです。
 客観的な審査部門としての法制部局と、政策運営において立法を論ずる政策法務部局の両立が本来的には望ましいのかもしれませんが、規模と人材に限りがある自治体においては難しいところです。
 あえて「政策法務課」が設置されるとすれば、庁内における政策法務の推進に併せて、上記のバランス感覚も積極的に意識されるべきでしょう。

*1:自治体法務NAVI」Vol.1(第一法規)8頁

*2:これに対して「法制執務」は「知識」「技術」であると言える。ともに私が「はてなキーワード」に記載した内容です。

*3:わあ、もう2年も前だ。

*4:わあ、この記事も2年も前だ。