自治体法務の備忘録

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資本主義はなぜ自壊したのか

 まず、おことわり。拙blogでは、過去にも少なからず書籍を紹介させていただいていますが、基本的には、実務書や最先端の自治体論など、自治体の皆さんのお役に立つのではないかと判断したものが多い。しかしながら、今回は、例外的に、ちょっと否定的なご紹介をさせていただきます。
 著者は、小渕政権の頃から構造改革議論の旗手であった方。この度の金融危機で、ご自身で言うところ「転向」をされたそうです。
 その内容は、2月8日付け毎日新聞の書評で、伊東光晴名誉教授(京都大学)に、新古典派総合の理解に欠けるのではないかとも指摘され、また他にも、経済学者としての初歩的な過ちをしている旨の指摘がされているようではありますが、ここでは立ち入りません。
 気になるのは、ご専門の経済論よりも多くが割かれている日米文化の比較論における、一面的な理解と断言的な物言いです。その論説は、ステロタイプな考察に基づく牽強付会なものが多くないか。
 一例を挙げますね。欧米は自然を克服するものと捉えるのに対し、日本は自然を尊重し、ともに育んできた、とは確かに言われるところですが、これをもって本書が指摘するように、欧米が無配慮に自然破壊を繰り返し、一方で、日本では現在に至るまで自然が保護されてきた、と単純には言えないのではないでしょうか。
 自然を人間とは隔絶すると捉える概念は、翻って、その危機を認識した場合は積極的にこれを保護しようという姿勢に向かいうるのではないか、とは欧州の森林施策を見て思うところですし、また、自然と人間社会の概念が未分化の日本にあっては、むしろ逆に無作為に開発が実施されうることが否定できないのではないのかな。
 また、本書では、アメリカ型社会のアンチテーゼとして、キューバブータンを挙げますが、わずかな滞在経験といくつかの統計上の数値のみをもっての説得には疑念が沸かざるを得ない。巻末に掲載される参考文献に新書レベルのものが多いのも気になるところ。
 著者は、自分の過去の論調が「アメリカかぶれ」によるものであったと反省しますが、本書における旧来の日本型システムの肯定が、やはり表層的なものでないかとの疑念は抱かれないのでしょうか。
 私自身は、政府の大小論、いずれにもくみしませんが、かくも表層的な理解の下に構造改革論議がされていたかと思うと、いささかの寒気を覚えざるを得ません。