自治体法務の備忘録

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待望される「立法論」

 自治体職員には馴染みが少ないかと思いますが、「法学セミナー」誌(日本評論社)先月号の特集「『法改正』を理解する−学習者のための基礎知識」に吉田利宏氏が寄稿された内容が興味深いものでした。

法学セミナー 2010年 07月号 [雑誌]

法学セミナー 2010年 07月号 [雑誌]

 同氏は洒脱な法令解説でご著名ですが、衆院法制局での実務を踏まえた、数少ない立法論者でもいらっしゃいますので、その指摘の内容は新鮮です。

 近年、さまざまな法改正がなされているが、全部改正や、会社の定款変更にも相当する目的規定の改正はそれほど多くはない。(後略)
 (前略)つまり、多くの改正は、まったく新しい価値を持ち込むものではなく、従来の法の目的の範囲のなかで行われ、その手段も従来の規定との親和性があるものということになる。
(5頁)

 そして、衆院法制局時代に先輩から指摘されたという内容に触れた上で、

法改正に対する柔軟な思考は、改正前の法律に対する理解から導かれるものということができるのではないだろうか。

と、論を展開させます。
 そういえば、拙blogでも、平成8年に新「民事訴訟法」が制定された際に、旧「民事訴訟法」がその名前を数度変え、最後には廃止された経緯をご紹介したことがありました。
【名を変えて、姿を変えて嫁いだ「法律」】http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20091210/p1
 法律の「改正」には、その関連する体系をも見据えた理解と解釈が不可欠ということでしょう。
 また、「地方自治職員研修」誌(公職研)最新号では、「かながわ政策法務研究会」で吉田氏がご発表された「法律案作成の過程について」の概要が掲載されています。

地方自治職員研修 2010年 08月号 [雑誌]

地方自治職員研修 2010年 08月号 [雑誌]

野党案の場合にはまず「どうしてそのような法案を依頼したのか」という立法事実や真の意図を聞き出すことが重要となる。また、与党案については所管省庁がサポートしている場合が多いが、隠された問題点など「いかに負の情報を聞き出すか」がポイントとなる。
(82頁)

 政権交代がなされたものの、衆参ねじれ国会が成立し、民主党政権下で一度は廃止された与党内の政調が復活するなど、国も立法過程の構築が手探りの状況です。
 氏は、上記「法学セミナー」のご寄稿にも「退職後も守秘義務はついてまわる」とその制限を記述されていますが、ご経験を踏まえた立法論の展開を期待させていただきたいと思います。
 なお、一方で自治体においても、議会基本条例の制定や、一部自治体における首長と議会の極端な緊張関係などの状況を踏まえた立法論が、分権後10年を経て待望されている時期のような気がいたします。