自治体法務の備忘録

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債権管理(放棄)条例

 洋々亭さんのところの掲示版で、私債権管理条例の制定状況についてご質問があり、「ごうじ」さんが回答されていました。

いくつかあげれば
浜松市債権管理条例
明石市私債権の管理に関する条例
岡崎市の債権の管理に関する条例
秋田市債権管理条例
足立区の債権の管理等に関する条例
宮崎市債権管理条例
多治見市債権管理条例
福知山市債権管理条例
町田市私債権管理条例
横須賀市債権管理条例
函館市債権の管理に関する条例
横浜市の私債権の管理に関する条例
秦野市債権の管理等に関する条例
西宮市債権の管理に関する条例
豊島区の債権の管理に関する条例
中野区の債権の管理に関する条例
などなど多数です。
例規を電子化していない自治体もあるので、おそらく全国でいくつの自治体が債権管理条例を定めているのかを、大まかな数であっても、把握するのはかなり困難ではないでしょうか。
http://www.hi-ho.ne.jp/tomita/yybbs/#25659

 自治体財政の健全な運営のために、債権の適正な管理は喫緊の課題であることは疑いがなく、いわゆる「債権管理条例」については、拙blogでも先行事例についてご紹介させていただいたことがあります。
 そのような条例では、「私債権」に係る債権放棄が制定の大きな目的の1つであるわけですけれども、制度設計に当たっては「私債権」の定義自体が複雑な問題をはらんでいることに留意が必要です。*1

条例づくりのための政策法務 (★いまこそ、政策法務の真価が試されるとき!!★)

条例づくりのための政策法務 (★いまこそ、政策法務の真価が試されるとき!!★)

 条例の債権放棄の対象となる自治体の規定は、(1)自治法231条の3第1項の分担金等及び自治法の「債権」が適用されないもの(同法240条4項)を除く債権とするもの(新宿区など)、(2)私法上の原因に基づいて発生する債権(江戸川区ほか)とするもの、(3)強制徴収により徴収する債権を除く債権とするもの(比較的多数)に大別される。(後略)
 第一に分担金等をすべて除くタイプは、貸付金債権の免除が中心的に想定されているものと思われるが、前記民法が適用される(中略)水道事業、病院の診療報酬などに滞納がある自治体には不向きな規定である。
 第二に、条例等に基づいて発生する私法上の債権について適用されないと読める規定である。入居決定を行政処分形式で行う公営住宅がある自治体には不向きであろう。また、公法上の債権で民法の規定が適用されることとなるものについても適用できないこととなる。
 第三に、強制徴収権の有無を債権の公法・私法性を画する基準とするのは、比較的分かりやすいが、強制徴収権の存在と自治法236条の適用される公債権とは、論理的につながるものではない。(kei-zu注:病院の診療報酬に民法が適用される旨の判例を挙げた上で)例えば保育料(児童福祉法56条によって強制徴収ができる)も、民間の託児施設に預けたときの利用料金と本質的に変わらないものとして、時効については、民法が適用されることになるかもしれない。
(100頁〜101頁)

 制度設計を検討されている自治体におかれては、上記をご念頭に置いていただきたく。
 森幸二氏(北九州市)は、既存の債権管理条例について、上記の田中孝男先生とは違った分類をされた上で、自治体における債権の体系的な理解について疑問を呈し、

 手続条例の代表例である債権管理(放棄)条例において、各自治体は条例制定権を生かすことができていない。
自治体法務NAVI」Vol.29(11頁)

と、厳しく指摘されています。同条例の制定は、自治体法務に関するチャレンジの1つと言って良いかとも思います。

*1:その他本書は最先端の条例論が充実していますので、ご興味もたれた方は是非ご一読ください。