自治体法務の備忘録

管理人のTwitterは、@keizu4080

続・小田急高架化訴訟最高裁判決

 先日の記事(http://d.hatena.ne.jp/kei-zu/20051208/p2)にも掲載した最高裁判決について、法学者の皆さんのご意見で非常に勉強させていただいております。
 原告適格については、id:dpiさんが詳細に検討されていらっしゃいます。

一昨日のコメントに準えて言うならば、原告適格判断とは、どこかに引かれていなければならない線をどこかに引く作業だということになりますが、それでは、本件で「別紙上告人目録1ないし3記載の上告人ら」と「同目録4記載の上告人ら」との間に線を引いたこと、その「ものさし」に環境影響評価条例(の定める「関係地域」の概念)を利用したことが、法的にどの程度合理的に説明できるのか、疑問なところもあります。環境影響評価条例が制定されていなかったらどうするのかとか、東京都では「関係地域」は都市計画事業の事業者である知事が定めることとなっていますから、争われる可能性を制限するために「関係地域」を狭く定めるようになってしまったらどうするのかとか、疑問があるように思います。
http://d.hatena.ne.jp/dpi/20051208/p1

 実務屋であるに過ぎない立場としては、コメントを控えさせていただくところですが、以下のとおり、気のついた点を各自治体のご担当者の方々へのメモとして記載させていただきます。
 まず、前段の内容については、じゃあ、余計な条例を定めなければいいじゃん、という保身的な発想になりますが、逆に言えば、訴訟の危険性を選択してでも市民に対する自治体の役割を果たしていこう、という意思決定が必要になってきた、ということです。したがって、個人的には、「制定されたこと」にだけ意味がある条例が淘汰され、実質論において価値のある立法が自治体において行われる端緒になるのではないかと期待するところです。なお、条例の制定の可否における原告適格については、「法令解説資料総覧」において、出石稔氏(横須賀市)が切り込んでおられます。

【出石】積極的に条例をつくって地域の実情に応じた対応をすればするほど、自治体は訴えられやすくなるということになりませんか。
【宇賀】確かに、地方公共団体が独自に景観とか、あるいは文化財保護のための条例を作ってる場合とそうでない場合がありますので、開発行政において、条例がある地方公共団体ではそれが関係法令と解されて原告適格の範囲が拡大する、逆にないところ原告適格が狭く解釈されて、ますます景観や伝統的な建造物が破壊されていくという問題が起こりえます。それは本来決して望ましいことではありませんので、今後、先進的な地方公共団体が条例で取り組んでいることを法律に昇華させていくことが重要ですね。
鈴木庸夫(千葉大学大学院教授)、宇賀克也(東京大学大学院教授)、中村次良(東京都法務部長)、出石稔(横須賀市主幹)
法令解説資料総覧274号「座談会 改正行政事件訴訟法自治体への影響<第1回>」14ページ

 ここで宇賀先生は法へのフィードバックの期待について述べられていますが、逆に言えば、法の規定が無い中でどれだけ自治体の先進性が試されるかということでしょう。
 id:dpiさんのご考察の後段については、id:AKITさんも

 東京都環境影響評価条例2条5号の規定する「関係地域」は、東京都が対象事業の実施が環境に著しい影響を与える地域であると認定した地域であり、本件鉄道事業によって健康被害等を直接受けるおそれのある者の範囲をこの「関係地域」によって画定しています。しかし、都による「関係地域」の認定には裁量の余地があることに鑑みると、この認定に全面的に依拠した原告適格の認定には問題があるように思われます。
http://d.hatena.ne.jp/AKIT/20051208

とご指摘されていらっしゃいますが、この点については、id:joho_triangleさんのご考察が参考になります。

 この判決文をザーッと読んでの感想として。イロイロと感じ入るトコロはあるのですが、個人的には先日のエントリで示唆したように、「法令制定前(又は事業計画決定前)において、多面的な観点から当該法令案(又は事業計画案)を検討するという『パブリックコメント手続』によって、その法令(又は事業計画)の趣旨及び目的等を、可能な限り客観的に明らかにしておくことの重要性」が、今後ヨリ注目されなければならないのではないか、と(自分勝手に)思う次第。
http://d.hatena.ne.jp/joho_triangle/20051208/p2

 つまりは、計画決定に際しては、行政の「裁量」において、いいかげんな言い訳を許さないための意見公募手続自治体に求められているということでしょう。また、意見公募手続については、前段の説明において指摘した「実質論において価値のある立法」においても重要とされる手段なのだと思います。
 逆に言えば、市民にとっては、そのような行政の働きへの期待をどのように実現するかが問われているということになるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、なんだか大きな宿題を背負った気分です(^^;