自治体法務の備忘録

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選定で問われた「公の施設は誰のものか」

 「地方自治」4月13日号における桧森隆一氏(ヤマハ株式会社静岡企画推進室長)の寄せられた文章がおもしろい。東京都大田区における保育園への指定管理者制度の導入の結果、事故の発生や体罰疑惑の経緯から一部の親による執拗なクレームがエスカレートし、職員への傷害事件まで発生した事例を挙げて、運営企業に業務体制や労務管理に不備があったであろうことを指摘した上で以下のように指摘している。

この事例で指定管理者制度への教訓として取り上げるべきは、「保育は公がやるもの」と主張する親にどう対応するか、ということである。つまり、企業としてのサービス向上や顧客満足以前に、公の施設に対して権利意識、オーナー意識を持つ利用者がいる、ということである。
 これは特に保育施設、教育施設、福祉施設などについて言えることだが、それらの施設の提供するサービスを、「公」に対する当然の権利として考える利用者がいる。そのような時、指定管理者となった企業やNPOは、顧客満足度の向上のような供給者側の論理だけで対応するのではなく、施設の運営にどのように利用者が参画するかを考える必要がある。
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 保育園の入園許可決定等に係る行政庁の権力性から、「公」として期待されるべきはやむを得ないのではないか、と一瞬思考がよぎりましたが、なるほど、施設が本来は「市民のもの」であるとするのであれば、行政庁の行為の権力性はさておき、運営における利用者の参画が想定されてしかるべきではないか、という指摘です。
 多彩な利害関係を調整するべく行政に付された権力性が硬直するに及んで、ぶっ壊して、対話の上で再構築していくべきではないか、ということでしょうか。このことについては、昨今の行政への住民参画における論議と同様のものでありましょう。
 指定管理者制度については、行政の効率化のみならず、住民参画・市民協働をも目的にしうるという導入当時の説明について、NPOが運営主体になることも可能であるからだと理解していたのですが、施設のあり方自体を問うべきものになろうという点で興味深い指摘です。