法の種類と関係(講義再現)
【日本国憲法】※最高法規
日本国憲法は、最高法規です。誰が決めたか。憲法が自分で言っているのですね。
○日本国憲法 第98条第1項
この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅(しょうちょく)及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
「最高」って、自分で言っている。その憲法を頂点として、それぞれの「法」が位置付けられているわけです。
【法令】※国で定められる
法律と、これにもとづいて定められる命令をまとめて「法令」と呼びます。「法・令」ですね。
・法律
国は、国会で「法律」を定めます。介護保険ですと、「介護保険法」があります。
・政令
「政令」は、内閣にとって定められます。総理大臣によってじゃありません。法律より細かい内容が定められます。
「内閣」って? 総理大臣と国務大臣で組織される合議制の機関です。
「介護保険法」で定めきれない内容は、「介護保険法施行【令】」で定められます。
・府・省令
「府令」「省令」のことです。「省」は、厚生労働省とかですね。
「府」って何だ? 大阪府とか京都府じゃありません。「内閣府」のことです。名称は異なりますが、法律上の位置づけとして、「府」「省」は同等です。
介護保険法施行令より細かい内容は、大臣によって「介護保険法施行【規則】」として定められます。「省令」なのに「規則」の名称です。「令」は、政令で使ってしまっていますからね。
・告示
省令ですべての内容が定めきれるわけではありません。介護保険でいえば、サービスの内容や施設について「○○に関する基準」などの名称で、大臣による告示が定められることがあります。
【例規】※自治体で定められる
自治体で定められるのは「例規」です。もともとは「慣例による規範」の意味があるそうですが、条例の「例」と規則の「規」で覚えてよいと思います。
・条例(個別の法律に基づく)
介護保険法に基づく「介護保険【条例】」があります。お住いの自治体の保険料などが定められています。条例の制定改廃は、議会の議決事項です。
・規則(個別の法律に基づく)
「介護保険条例施行【規則】」は、保険料の賦課通知の様式などが定められています。規則は、長によって定められます。
さっき似たような「介護保険法施行規則」というのがありました。こちらは省令です。「施行規則」前に付くのが「法」か「条例」かで区別をつけるしかない。ややこしいですよね。
法律から直接規則を作る必要があることもあります。でも、「○○法施行規則」と名前をつけると、省令か規則かわからない。しかたがないので、規則なのに「細則」と名称を付けることがあります。「建築基準法施行細則」などがあります。
・告示
基準など、細かな内容が定められる場合があるのは、国と同様です。
・条例(個別の法律に基づかない)
多くの人が行きかう駅前でタバコを吸ってはいけないとする「駅前喫煙禁止条例」を定める自治体があります。上記の表では、斜字体で表示しました。
ただし、「駅前喫煙禁止法」があるわけではありません。自治体は、憲法が保障する自治立法権に基づき、地域の課題解決のために条例を制定することができるのです。
○日本国憲法 第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
○地方自治法 第14条第1項
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。○地方自治法 第2条第2項
普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令で処理することとされるものを処理する。
・規則(個別の法律に基づかない)
駅前喫煙禁止条例の詳細な事項は、長によって「駅前喫煙禁止条例施行規則」が定められます。これも、上記の表では、斜字体で表示しました。
上記の表で、「規則」には「憲法」から垂直に降りる直線があるでしょ。府・省令は直接根拠となる法律が必要ですが、規則は、長の権限の範囲であれば、法令や条例を直接の根拠としなくても定めることができます。
上記の表では、庁舎管理規則を例示しました。「庁舎管理【法】」や「庁舎管理【条例】」があるわけではないのです。
○地方自治法 第15条第1項
普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
憲法の条文には「条例」の記載しかありませんが、長が定める規則についても、自治立法権の範囲内と考えられています。
・条例と規則の関係
先ほど例に出した「駅前での喫煙禁止」は、条例で定められていました。義務権利に関する事項については、条例によらなければいけないからです。
○地方自治法 第14条第2項
普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
長も選挙で選ばれたのだから規則で定めてもいいじゃん、そっちの方が早いし、そういう考えもあるでしょう。でも、権利義務に関する事項については、より慎重な制定過程を経た方がよいというのが、人類の経験則と知恵なのです。
・訓令
訓示の「訓」に命令の「令」ですから、なんだか偉そうです。というのは、上級機関から下級機関への職務命令であるからです。
表では「職員服務規程」を例示しました。形式は「訓令」なのですが、名称が「規程」であることには注意が必要です。
職員服務規程は、出張に行ったら復命書出せよ、届出はこういう種類があるよ、といった内容かと思います。駅前でタバコ吸ってはだめ!と定めることはできるでしょうが、職務命令ですから、その効果は、部下である職員にしか及びません。住民などに広く効果を及ぼすためには、条例で定める必要があるのです。