自治体法務の備忘録

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「なお効力を有する」規定の改正

 さて、上記の記事に続いてalittlethingさんは、同県の条例では既に出納長に関する規定(諸経費別で給与月額は95万円、退職手当は毎月28万5千円の積み上げ)について触れられています。

しかしこの条例はすでに「知事及び副知事の給与等に関する条例」に改正されてて、附則で「出納長がなお従前の例により在職する場合について、なおその効力を有する。」となっているわけなのです。
ここで給与を減額する時にはどんなふうに条例改正するものなのか、法規担当でない自分には皆目見当がつかないわけです。
id:kei-zuさんならおわかりでしょうか。どうでしょう?
http://d.hatena.ne.jp/alittlething/20070613/p1

 ご指名ですので、わかる範囲内でご回答しましょう。
 法令の改正において、旧法令や改正前の規定の効力を経過的に一時持続させる場合の規定には、「なお従前の例による」とする方法と「なおその効力を有する」とする方法があります。
 両者の違いについて端的に述べれば、前者は「なお従前の例による」という規定が適用の根拠になるのに対し、後者は「なおその効力を有する」という規定によって効力を有することとされている旧法令又は改正前の法令の規定が根拠になります。(「ワークブック法制執務」305頁)
 したがって、前者の場合には、旧法令や改正前の法令の規定は失効しているので、後にこれを改正することはあり得ないのに対し、後者の場合には、旧法令や改正前の法令の規定は効力を存続しているので、後にこれを改正することは可能です。(「法制執務詳解4訂版」250頁)
 具体的な改正例として、「ワークブック法制執務」には以下のように記載あります。(519頁)

   利率等の表示の年利建て移行に関する政令
 (旧公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律施行令の一部改正)
第十九条 都市再開発法施行令附則第三条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされる旧公共施設の整備に関連する市街地の改造に関する法律施行令(昭和三十六年政令第二百九十四号)の一部を次のように改正する。
  第十三条及び第十六条第一項中「年六分」を「年六パーセント」に改める。
  (以下略)

 上記では、「廃止後の旧法」の規定を改正するものですが、廃止されたのが特定の「条項」である場合について調べてみたものの、ちょっと事例が見つかりませんでした。試しに書いてみるとこんな感じかなあ。

昭和28年神奈川県条例第8号
   知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例
第1条 知事の給料の額は、月額145万円とする。
2 副知事の給料の額は、月額116万円とする。
3 出納長の給料の額は、月額95万円とする。
第2条 知事、副知事及び出納長が退職した場合には、その者(死亡による退職の場合には、その遣族)に退職手当を支給する。
2 前項の退職手当の額は、任期満了の日(任期満了の日前に退職した場合には、その退職した日。次項において同じ。)におけるその者の給料の月額に知事、副知事又は出納長(以下「知事等」という。)としての在職月数を乗じて得た額に、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める割合を乗じて得た額とする。
 (1) 知事 100分の60
 (2) 副知事 100分の45
 (3) 出納長 100分の30
3 前項の在職月数の計算は、知事等となつた日の属する月から任期満了の日の属する月までの月数による。
(略)

 知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例の一部を改正する条例(平成18年神奈川県条例第72号)附則第2項前段の規定によりなおその効力を有するものとされる同条例による改正前の知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例(昭和28年神奈川県条例第8号)の一部を次のように改正する。
 第1条第3項中「95万円」を「××万円」に改める。
 第2条第2項第3号中「100分の30」を「100分の××」に改める。
※07.06.15追記 hoti-akさんのご指摘により一部修正しました。

 しかしながら、「もっとも、そのような場合は、正面から旧法を改正するのではなく、効力を有すると定めた法令の当該条項を改正して、旧法に関する必要な読替規定を設けることの方が、実際には、妥当であろう。」という指摘があり(「条例規則の読み方・つくり方」192頁)、どうやら、こっちの方がすっきり書けそうです。そうすると、こんな感じになるのかな。

平成18年神奈川県条例第72号
   知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例の一部を改正する条例
(略)
   附 則
1 この条例は、平成19年4月1日から施行する。ただし、第2条第3項の改正規定は、公布の日から施行する。
2 この条例による改正前の知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例の規定は、地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律第53号)附則第3条第1項の規定により出納長がなお従前の例により在職する場合について、なおその効力を有する。この場合において、同条例第2条第3項中「までの月数」とあるのは、「までの月数(当該月数が48を超えるときは、48とする。)」とする。

 知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例の一部を改正する条例(平成18年神奈川県条例第72号)の一部を次のように改正する。
 附則第2項中「おいて」の下に「、同条例第1条第3項中「95万円」とあるのは「××万円」と、同条例第2条第2項第3号中「100分の30」とあるのは「100分の××」と」を加え、「同条例第2条第3項」を「同条第3項」に、「、「まで」を「「まで」に改める。

【溶け込み後】
2 この条例による改正前の知事、副知事及び出納長の給与等に関する条例の規定は、地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律第53号)附則第3条第1項の規定により出納長がなお従前の例により在職する場合について、なおその効力を有する。この場合において、同条例第1条第3項中「95万円」とあるのは「××万円」と、同条例第2条第2項第3号中「100分の30」とあるのは「100分の××」と、同条第3項中「までの月数」とあるのは「までの月数(当該月数が48を超えるときは、48とする。)」とする。

 ああ、マニアック。
 ついでにいうと、公布日施行で4月1日から遡及適用し、差額をこれからの支給分から差っ引くという方法も(こらこらこら