自治体法務の備忘録

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Re:条文不整合のまま10年以上の放置 …… 地方自治法本法条文

 5月2日に公布されたばかりの地方自治法の改正について、木佐茂男先生(九州大学)がおもしろいご指摘をされていました。

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 第二百九十一条の五第一項中「次条第七項」を「次条第八項」に改める。

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 これは、291条の5において、次条7項を次条8項に変える、というのですが、総務省のサイトに掲載の新旧対照表(http://www.soumu.go.jp/main_content/000060593.pdf)の13ページで確認すると、ここでいう「次条」たる「291条の6」においては上記の項の移動がないのです。
 となれば、これは、現行地方自治法がミス状態になっているものをこっそり変えるということにしかみえません。
http://tabushi.cocolog-nifty.com/platz/2011/05/no139-4601.html

 諸資料確認をしたところ、やはり改正漏れの修正のようですね。
 問題の第291条の6は、平成9年法律67号で第6項が追加され、従来の第6項・第7項が1項ずつ繰り下げられました。この際、第7項を引用するご指摘の箇所に改正漏れが生じたようです(この改正が行われる前のご指摘箇所を確認したところ(当然ですが)現状どおり「第7項」の記述でありました)。
 となれば、14年もの間、項ずれが放置されていたことになります。確かに珍しい事態かと思います。
 普段から法令・例規の細かな整合性に汲々としている身として、個人的には凡ミスが国にも見られたことにいささか安堵する思いが、いやげふんげふん。
 さて、そうなると気になる法的整合性の可否ですが、「法令の改正の経緯において過誤が立法の趣旨からみて客観的に明白であるか」が分水嶺になる旨が政府の見解になろうかと思います
 以下は、40箇所もの誤りが制定後に問題となった年金法改正時(そんなこともあったなあ!)における質問趣意書におけるやりとりです。

【質問】(抜粋)
 政府は、国民年金法等の一部を改正する法律(平成一六年六月一一日法律第一〇四号)の条文の過誤を、平成一六年七月二七日付け官報第三九〇〇号に正誤表を掲載することによって訂正したとしている。
 しかし、憲法第四一条は、国会は「国の唯一の立法機関」であると規定しており、国会が議決した法律を政府限りで訂正し得るとする政府の見解は憲法上大きな疑義がある。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/160/syuh/s160013.htm

【回答】(抜粋)
 今回の国民年金法等の一部を改正する法律において訂正を要した箇所は、例えば条項の移動を正しく反映させていないことなどにより、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬が生じていることが客観的に明らかであり、当該齟齬が生じたままでは実質的な法規範の内容が正確に表現されていないため、官報正誤により訂正したものである。http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/160/touh/t160013.htm

 ここでの質問は、立法の過誤が官報正誤によってなされることの妥当性ですが、「立法過程に生じた客観的に明白な過誤」を合法的と解釈する趣旨は近しいものかと思います。
 自治体向けの法制執務解説書には、以下の記述があることも申し添えましょう。

 誤謬の内容が明らかに条例の運用、適用等に生じるものである場合は、「誤謬のため」とおいう理由で直ちに改正すべきか。
 この場合において、例えば引用法令や引用条項が間違っている場合は、条例の運用、適用等に支障を生じるものと解すべきか。

 条例の改正の時期をいつにすべきかについては、その受ける支障の軽重等を考慮して判断すべきものです。(中略)権利や義務に関することで、誤謬が外見上明らかでない場合には誤った内容が効力を持つと解されることからすると、速やかに改正を行い、誤謬を是正する必要があります。
(略)
 一方、単なる条項ずれ等で変更解釈をすることにより誤りなく運用ができる場合においては、放置されている例も現実にはあります。(中略)結局、誤謬により発生する支障の軽重等を考慮して、改正の時期を考えなければなりません。
「実務相談 法制執務」(ぎょうせい)200〜201頁

 ここで気になるのは「放置されている」事例が自治体条例に関するものなのか、それとも今回事例にあげた法律にもよく見られるものなのか、いやげふんげふん。