自治体法務の備忘録

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法令の規定により条例に委任された基準等に関する条例

 第1次・第2次一括法の「義務付け・枠付けの見直し」に基づき、自治体が法律からの委任により定めなければいけない条例があることは、拙blogをご覧の方であればご承知のことと思います。
 第1次一括法の審議時に、「各法で要請される基準を横串に刺して並べた一括条例を制定すればいいんじゃないの?」と冗談で話したことがあったのですが、同じような発想はあるのですね。3月に公布された兵庫県条例です。

【法令の規定により条例に委任された基準等に関する条例】
第1条 この条例は、他の条例に定めがある場合を除くほか、法令の規定により条例に委任された基準等を定めるものとする。
http://web.pref.hyogo.jp/kk32/koho/documents/240321g1.pdf

 第1次・第2次一括法が要請する条例制定にあたっては、政省令で示される各基準(自治体の自由度に応じて「従うべき基準」「標準」「参酌すべき基準」の3種類)が示されています。自治体において一定の独自性を規定するにせよ、実質的にはほぼそれらに沿った内容を改めて条文上に制定する必要があるかは議論があったところです。 
 上記の兵庫県条例では、省令内容を改めて規定する手法はとらず、対象条項の引用し基準を定められています。

兵庫県条例】
(指定猟法禁止区域の標識の寸法)
第10条 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下この章において「法」という。)第15条第14項の指定猟法禁止区域の標識の寸法は、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則(平成14年環境省令第28号。以下この章において「省令」という。)第16条に定める標識に関し必要な事項を満たす寸法とする。
※強調はkei-zuによる。以下同じ。

 根拠法令を掲げておきましょう。

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律
第十五条 (略)
2〜12 (略) 
13  環境大臣又は都道府県知事は、指定猟法禁止区域の指定をしたときは、当該指定猟法禁止区域の区域内にこれを表示する標識を設置しなければならない。
14  前項の標識に関し必要な事項は、環境省令で定める。ただし、都道府県知事が設置する標識の寸法は、この項本文の環境省令の定めるところを参酌して、都道府県の条例で定める
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO088.html

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則】
(指定猟法禁止区域の標識)
第十六条  法第十五条第十四項の指定猟法禁止区域の標識に関し必要な事項は、様式第四のとおりとする
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14F18001000028.html

 条例において政省令の当該条項を引用することについては批判的な意見もありますが、基準として示された事項に関して十分な検討の上でそれらを適用することが妥当と判断された選択かと思います。
 また、政省令の条項が条例中に引用された場合、当該政省令の改正時に、条例で定めるべき事項が自動的に「塗り変わって」しまう危険性も指摘されるところですが、それらにも万全に対処する前提であるわけでしょう。
 なお、自治体条例が法令の規定を引用すること自体は法制執務的に違法ではありません。自治体が駅前禁煙条例を独自に制定するに際しても、法律上は直接関係のない道路法上の「道路」や、駐車場法の「駐車場」の定義を引用することが可能です。
 一方で、同法に要請される条例制定について、静岡県ではすべて規則に委任する手法が採られています。

鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第15条第14項ただし書等に規定する標識の寸法を定める条例】
(趣旨)
第1条 この条例は、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「法」という。)第15条第14項ただし書(中略)の規定に基づき、標識の寸法に関し、必要な事項を定めるものとする。
(標識の寸法)
第2条 次に掲げる標識の寸法は、規則で定める
(1) 法第15条第14項ただし書に規定する条例で定める標識の寸法
(2)〜(6) 略
2 前項各号に掲げる標識の寸法は、鳥獣の保護及び狩猟の適正化を図るものとしなければならない。
http://www2.pref.shizuoka.jp/all/kenkoho.nsf/webview2/63BF6E0B944E5D22492579BE001A93F8/$FILE/19jyorei.pdf

 適法性という点で見れば、むしろ兵庫県条例に比して弱い気がします。法律が要請しているのは「条例での制定」であるからです。
 委任された規則の改正内容はこちら→http://www2.pref.shizuoka.jp/all/kenkoho.nsf/webview2/CCBA2C9BED33C9FB492579C0002C2050/$FILE/sekousaisokukaisei.pdf
 まあ、そもそも標識の寸法なんて規則制定事項だろう、というお気持ちはわからないではないですが。  
 ただ、「再委任」を適法化する考え方としては、山本博史氏(千葉県庁)ご指摘が参考になるかもしれません。

 例えば、道路法45条3項に基づく道路標識の寸法について、そのすべてを規則に再委任するものと判断したとしよう。その際には、今回の条例委任の経緯を踏まえ、例えば「景観への配慮をして規則で定める」という枠組みを条例で規定しておく方法がある。
「ガバナンス」12年4月号(ぎょうせい)103頁

 静岡県条例の第2項に、上記の山本さんご指摘の「枠組み」を読み取ることは可能ということでしょうか。