自治体法務の備忘録

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行政事件訴訟法の教示制度の新設について

知事あて司法制度改革推進本部事務局長通知の教示制度に関する部分を抜粋しました。
HTML形式でアップされているものは見あたらないので、参考にされる方がいれば幸いです。
なお、全文のPDF版は、こちら↓
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/gyouseisosyou/dai31/31siryou2-3.pdf
全文のHTML化は、しんどいのでやりません(^^

行政事件訴訟法の一部を改正する法律の施行にあたって」(抜粋)
(平成16年10月15日閣司本第153号 都道府県知事あて司法制度改革推進本部事務局長通知)

 行政事件訴訟法の改正の骨子と行政運営にあたっての留意点

11 出訴期間等の情報提供(教示)制度の新設(第46条関係)
(1)制度を新設する意義及び制度の概要
 出訴期間等の取消訴訟等の提起に関する事項について情報提供をすべき行政庁の義務を新たに定めることにより、国民が行政事件訴訟により権利利益の救済を得る機会を十分に確保しようとするものである。
 取消訴訟等の提起に関する事項を行政庁が教示しなければならない場合は、以下の3つの場合があり、それぞれの場合ごとに教示すべき事項が定められた。
 教示をしなければならない場合は、第1は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合(第46条第1項)、第2は、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある場合において、当該処分をするとき(第46条第2項)、第3は、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを提起することができる処分又は裁決をする場合(第46条第3項)である。ただし、いずれの場合も、当該処分を口頭でする場合には、教示をする義務はない(第46条第1項ただし書、第2項ただし書、第3項ただし書)。教示すべき場合は、書面により処分がされた場合に限らず、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成14年法律151号)第4条第1項に基づき電子情報処理組織を使用して当該処分の通知をすることによって処分をした場合も教示をすべき場合に当たる。
 教示の方法については、いずれの場合も、書面で教示しなければならないと定められた(第46条第1項から第3項まで)。ただし、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第 条第 項及び法務省の所管する法令の規定に基づく行政手続等における情報通信の技術の利用に関する規則第5条、別表第2の第4号(平成16年10月15日法務省令第  号による改正後のもの)に基づき、第46条第1項から第3項までの規定による教示は、電子情報処理組織を使用してすることもできることとされている。なお、書面による教示は、処分の通知書と一体となる同一の書面でする必要はなく、処分の通知書とは別に、教示すべき事項を記載した訴訟の提起に関する説明書のような書面を交付することによってすることもできる。
 教示の相手方は、いずれも、当該処分又は裁決の相手方である(第46条第1項、第2項、第3項)。行政不服審査法第57条による審査庁等の教示の制度では、利害関係人から当該処分が不服申立てをすることができる処分であるかどうか並びに当該処分が不服申立てをすることができるものである場合における不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間につき教示を求められたときは、行政庁は、当該事項を教示しなければならない(行政不服審査法第57条第2項)、と定めて利害関係人に対する教示の制度を設けているが、取消訴訟等の提起に関する事項の教示については、このような利害関係人に対する教示の制度は、設けられていない。特定の名あて人がない処分については、処分の相手方がないから、教示をすべき場合には当たらない。ただし、公告等により処分の公示がされる際に、取消訴訟の提起に関する事項についても、適切な情報提供がされることが望ましいと考えられる。
 取消訴訟等の提起に関する事項の教示の制度に従って教示をしなかった場合や実際より長期の出訴期間を教示するなど誤った教示をした場合の処分の効力などについては、規定されていない。教示をしなかったり、誤った教示がされたとしても、そのことのみを理由として、当然に、処分が取り消されるべきものとなり、あるいは無効になるものではない。
 しかし、第46条により取消訴訟等の提起に関する事項の教示義務が行政庁に課されていることから、出訴期間を経過しても取消訴訟を提起することができる「正当な理由」があるかどうか(第14条第1項ただし書)、被告を誤った訴えの救済がされる場合である原告が「重大な過失」によらないで被告とすべき者を誤ったときに当たるかどうか(第15条第1項)、あるいは不服審査前置の定めがある場合に裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができる「正当な理由」があるかどうか(第8条第2項第3号)、など訴訟要件を欠いた場合の救済の必要性の判断に当たって、教示があったかどうか、教示が適切なものであったかどうか、というような教示義務が守られたかどうかという事情が考慮されるものと考えられる。
(2)取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合の教示(第46条第1項関係)
①制度の概要
 取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合(処分を口頭でする場合を除く。)には、行政庁は、当該処分又は裁決の相手方に対し、①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者、②当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間、③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨(いわゆる不服審査前置)の定めがあるときは、その旨、を書面で教示しなければならない(第46条第1項)。
 教示をすべき事項には、管轄裁判所は、含まれない。しかし、行政庁として、教示を義務付けられた事項以外の事項について、国民が行政事件訴訟により権利利益の救済を得る機会を十分に確保する観点から教示をすることは、何ら妨げられない。例えば、原則的な管轄裁判所である行政庁の所在地を管轄する地方裁判所を例示する方法によって管轄裁判所を教示することも、教示制度の趣旨に適合すると考えられる。
②教示をしなければならない場合
 第46条第1項による教示をしなければならない場合は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合である。行政庁の公権力の行使には当たらないため処分ではないとされる場合は、取消訴訟を提起することができないため、取消訴訟の提起に関する事項を教示する必要はない。
 教示をすべき相手方である処分又は裁決の相手方が取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合に限られる。処分又は裁決の相手方がその取消しを求める法律上の利益を有しない処分又は裁決をする場合は、教示をすべき場合に当たらない。
 処分をする際には、その処分の取消しの訴えの提起に関する事項を教示すれば足り、審査請求に対する裁決をする場合には、裁決の取消しの訴えの提起に関する事項を教示すれば足りる。
③当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者
 当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者を教示するには、処分又は裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体を被告とすべき場合には(第11条第1項)、その国又は公共団体を教示し、処分又は裁決をした行政庁を被告とすべき場合には(第11条第2項、個別法で定める場合)、被告とすべき行政庁を教示するほか、国又は公共団体を被告とすべき場合には、国又は公共団体が被告となるべきことと併せて、被告を代表すべき者として、法務大臣都道府県知事、市町村長、あるいは地方公共団体の執行機関などをも教示すべきである。ただし、法務大臣東京都知事、など国又は公共団体を代表すべき機関の名称を教示すれば足り、現に職にある個人の氏名を教示する必要はない。
④当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間
 出訴期間を教示するには、処分の通知をする際に教示がされる通常の場合であれば、処分があったことを知った日から6か月の出訴期間(第14条第1項)を教示することになる。処分の日から1年の出訴期間もあるが(第14条第2項)、処分を知った日から6か月の出訴期間の方がこれより先に経過することが処分の通知をする際に明らかであれば、先に経過することが明らかな出訴期間のみを教示すれば足りるからである。ただし、処分の通知を発してもその処分の通知が受領されないなどの理由で、処分の効力が発生した時点では直ちに相手方の知るところとならない場合もあり、処分の通知を発する時点でそのような可能性がある場合には、処分があったことを知った日から6か月の出訴期間が処分の日から1年の出訴期間より先に経過することが明らかであるとはいえないので、処分の日から1年の出訴期間をも教示しておくことが適当である。
 審査請求に対する裁決を経た場合には、その裁決がされた日から6か月以内に処分の取消訴訟を提起することができることから、処分の際の出訴期間の教示では、この点も教示する必要がある。
 したがって、教示の書面では、例えば、「処分の取消しの訴えは、この処分の通知を受けた日から6か月以内(通知を受けた日の翌日から起算します。)に、国を被告として(訴訟において国を代表する者は法務大臣となります。)、提起しなければなりません(なお、処分の通知を受けた日から6か月以内であっても、処分の日から1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。ただし、処分の通知を受けた日の翌日から起算して60日以内に審査請求をした場合には、処分の取消しの訴えは、その審査請求に対する裁決の送達を受けた日から6か月以内(送達を受けた日の翌日から起算します。)に提起しなければならないこととされています。」というような記載をすることが考えられる。
⑤不服審査前置の定めがある旨
 不服審査前置の定めがある旨を教示するに当たっては、審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができないという不服審査前置の原則に関する定めだけではなく、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる例外に関する定めがある旨をも教示しなければならない。したがって、審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができるなど、第8条第2項第1号から第3号に定める場合には、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる定めがあることをも、あわせて教示しなければならない。第8条第2項に定める場合以外にも、個別法において、裁決を経ないでも処分の取消しの訴えを提起することができる例外が定められているときは、個別法の例外が定められている旨をも教示しなければならない。
 したがって、不服審査前置の定めがある旨を教示する場合には、たとえば、「処分の取消しの訴え(取消訴訟)は、処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができませんが、次の①から③までのいずれかに該当するときは、審査請求に対する裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができます。①審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき。②処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。③その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。」というような記載をすることが考えられる。
(3)裁決主義の定めがある処分をする場合の教示(第46条第2項関係)
 法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨(いわゆる裁決主義)の定めがある場合において、当該処分をするとき(処分を口頭でする場合を除く。)は、行政庁は、当該処分の相手方に対し、法律にその定めがある旨を書面で教示しなければならない(第46条第2項)。
 裁決主義の定めがあるときは、処分に対しては取消訴訟を提起することができないことから、その処分をする場合は、第46条第1項に基づいて教示をすべき場合に当たらない。
 しかし、この場合、審査請求をしないまま審査請求の期間が経過してしまうと、適法に審査請求をすることができなくなり、裁決に対する取消訴訟を提起する機会を失うことになる。したがって、この場合には、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨の定めがある旨を教示しなければならないこととしている。
(4)形式的当事者訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合の教示(第46条第3項関係)
 当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの(いわゆる形式的当事者訴訟、第4条参照)を提起することができる処分又は裁決をする場合(処分を口頭でする場合を除く。)には、行政庁は、当該処分又は裁決の相手方に対し、当該訴訟の被告とすべき者及び当該訴訟の出訴期間を書面で教示しなければならない(第46条第3項)。